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Column

高校生のための理系英語

2018/11/12

東京大学大学院工学系研究科 上席研究員
森村 久美子

携帯電話も電子レンジもマイクロウエーブ?

皆さんはマイクロウエーブと聞くと何を思い出しますか? 電子レンジですか? それとも超短波ですか? 電子レンジはいわゆるマイクロウエーブという超短波を用いて調理をする器具ですが、それについて学ぶ前に電波について少し学習しておきましょう。

 

1) 皆さんは電波にはいろいろな長さのものがあり、その長さと特長によって使用領域が異なっていることをご存知ですか。 よくお友達とでも波長が合う、合わないという言葉がありますが、電波も波長と用途によって合うものと合わないものがあるのです。

 

それではここで波長の長さによる電波の伝わり方について見てみましょう。

 

長い波(波長1~10km)は遠くまで伝わることができるので低い山や海底の探査にも用いられていますが、波長が長ければ長いほどその送受信には大規模なアンテナや送信設備が必要になります。

 

中波は波長が100~1000mですが、電波の伝わり方が安定していて遠くまで届くという特長があり、また受信は簡単なもので済むためAMラジオの放送にはこの帯域が用いられています。

短波は10m~100mですが、電解層に反射して長距離の通信ができることから、船舶無線や航空機の通信、アマチュア無線などに用いられています。

 

VHF(Very High Frequency)超短波は直進性、指向性が強く、電解層で反射されにくく、山や建物の陰にも回りこんで伝わることができます。多くの情報量を持つことができるのでFMラジオ放送や業務用移動通信に利用されています。

 

UHFと呼ばれるUltra High Frequency極超短波は、直進性がさらに強く、伝送できる情報量も多い、また小型の送受信機で送受信できることから、携帯電話、地上デジタルテレビ、空港監視レーダーなどに用いられています。

 

2) マイクロ波はSHF(Super High Frequency)とも呼ばれますが、その名の通り特に短い電波のことで、それまで超短波と呼ばれていた短波より短くて周波数の高いものです。 狭義には波長が1cmから10cm、周波数が3ギガヘルツから30ギガヘルツです。この電波はさらに直進性が強いので特定の方向に向けて発射するのに適しています。伝送できる情報量も非常に大きく、雨や雲の影響を受けにくく、電離層での反射や散乱が無いので太陽光発衛星から地上への電力輸送や、送信所間を結ぶ固定の中継回線、通信衛星、衛星放送に用いられています。身近なところでは無線LANにも利用されています。

 

一口に電波と言っても波長とその特徴によって使用される用途が異なることが分かりましたね。最近では、国内はもちろん宇宙空間でもいろいろな波長の電波が飛び交うということで、他国の無線通信網に干渉を与えないように、国際電気通信連合(ITU)が無線通信規則(RR)で周波数とその使用域を国際的に調整しています。上記の波長と呼称の分類については総務省の電波利用HPでの規定を参考にしましたが、100ミクロンメータから1メータ、300メガヘルツから300ギガヘルツまでの広い範囲の極超短波を総称してマイクロ波と呼ぶこともあるようです。

 

皆さんの身近にある携帯電話は、UHFの安定的な供給ができるようになって飛躍的な発展を遂げましたが、少しでも幅広くどこでも供給したい携帯電話会社と規定値を超えていないかを監視して摘発する総務省との間でいたちごっこの争いが繰り広げられているようです。

 

またマイクロ波の使用例として挙げた無線LAN(Local Area Network)は、いまや皆さんにも無くてはならないものとなっていますね。昔は、コンピュータは全て有線のケーブルに繋ぐことでインターネットに接続することが可能でしたが、最近では無線LANによる接続が可能になり、場所に縛られずにインターネットを使うことができます。無線LANはケーブルが必要でない分、持って動きやすく、レイアウトが自由になり、また一時的な使用もできるのですが、他の機器と電波干渉をしあう危険性がありますし、同じ室内でも電波の届かない場所が出てくることもあります。通信速度は電波が弱い場合、有線に比べて遅くなります。このように良い点と悪い点がありますから、これらを総合的に考えて使用する必要があります。

 

ここに電波の波長と用途をまとめた総務省の電波利用に関するHPの図を掲げましたので参考にしてください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

出典:総務省電波利用ホームページより

 

さて、前半では電波の波長による特徴と用途について見てきましたが、マイクロ波は英語ではmicrowave、皆さんが良く知っている電子レンジもアメリカではその名の通りマイクロウエーブと呼ばれています。つまりマイクロ波と電子レンジは同じ言葉になります。電子レンジは、アメリカでは1955年に、日本では61年にはじめて商品化されましたが、2450MHzの波長、出力数百ワットのマイクロウエーブで水分を動かして加熱を行ないます。なので「電子レンジ=マイクロウエーブ」なのです。

 

それではマイクロウエーブがどうやって調理を可能にするのか、その仕組みを見ていきましょう。電子レンジではマイクロ波で水の分子を振動させて、その摩擦熱で水分子を加熱します。食べ物は固形に見えても水分を含んでいますから水分子を加熱することで温めることができます。

 

3) 水の分子は2個の水素原子と1個の酸素原子から成っていますが、水素原子と酸素原子がさまざまな方向に向いているとき、マイクロ波をいろいろな方向から当てれば水分子も向きを変えようとして振動し、周りの分子と摩擦しあって熱を起こすのです。 このとき水分子をより高速で振動させればより高い摩擦熱が出ます。こうして食品が加熱されるのです。陶器やガラス器などの容器はマイクロ波を透過するので加熱されません。もちろん容器に入れた中身が熱くなることによって伝導熱は伝わりますが、それ自体が発熱することはありません。器に金属が貼ってあったり混ざっていたりするとマイクロ波とぶつかり合って火花が散ることもありますので気をつけましょう。

 

 

水素原子と酸素原子

 

 

 

 

 

摩擦熱発生の様子

 

 

 

 

 

 

 

 

 

出典:マイクロ波加熱とは? 四国計測工業株式会社

 

一般に電波が流れると強い電磁波が放出されます。その健康被害について恐れている人も少なくありませんが、実は、宇宙空間ではもっと有害な紫外線やX線、ガンマ線などが自然に存在しています。レントゲンで放射線を浴びると危険だと思われていますが、飛行機で自然に浴びる放射線量のほうがむしろ多いとされています。その場合、1時間当たり約0.003ミリシーベルト浴びるといわれています。つまり10時間のフライトで0.03ミリシーベルト、がんの発生率は放射線量1ミリシーベルトあたり0.005%増加するそうですから、0.03ミリシーベルトでは0.00015%の増加、つまり頻度が少なければあまり危険な量ではないと言えましょう。電子レンジでは確かに強い電流が流れていますが、かなりシールド(遮蔽)されていますので外へ漏れてくるということはほとんどありません。それでももしリスクを減らしたければ少し離れるだけで浴びる電磁波の量をかなり減らすことができます。

 

むしろ私たちが現在毎日のように使っている携帯電話のほうがよほど強くて短い電波を発しています。脳に与える害についてはまだ解明されていない部分が大きいのですが、くれぐれも携帯電話の使いすぎには注意しましょう。

 

 

コラム記事の下線部分の英訳例

 

 

1) 皆さんは電波にはいろいろな長さのものがあり、その長さと特長によって使用領域が異なっていることをご存知ですか。

 

Do you know that there are various lengths of radio waves, and their used areas are different depending on their lengths and features?

 

2) マイクロ波はSHF(Super High Frequency)とも呼ばれますが、その名の通り特に短い電波のことで、それまで超短波と呼ばれていた短波より短くて周波数の高いものです。

 

Microwave is also called SHF (Super High Frequency), but as its name implies, it is shorter than the radio wave which was formerly called Ultra High Frequency.

 

3) 水の分子は2個の水素原子と1個の酸素原子から成っていますが、水素原子と酸素原子がさまざまな方向に向いているとき、マイクロ波をいろいろな方向から当てればそれらも向きを変えようとして振動し、周りの分子と摩擦しあって熱を起こすのです。

 

A water molecule is composed of two hydrogen atoms and an oxygen atom, but when hydrogen atoms and oxygen atoms are lined in different directions, if microwaves are applied from various directions, the water molecule also vibrates in order to change the direction, which rubs against the surrounding molecules and generates frictional heat.

 

 

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