一般財団法人英語教育協議会(ELEC)
文部科学省 協力
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平成24年度ELEC英語教育シンポジウム報告

~グローバル人材育成に果たす英語教育の役割とは~

 

 

 

 

 

 

 

 

発表者のプレゼンテーションに熱心に耳を傾けるELEC主催の英語教育シンポジウムの参加者たち

(平成24年11月10日、東京・池坊お茶の水学院大講堂にて)

 

政官界から経済界、教育界にいたるまで、グローバル人材育成への真剣な取り組みを求める声が充満している。日本社会全体が、いわゆるグローバル化の波に激しく洗われている証左なのだろう。そもそも「グローバル人材」とは何を指すのか、そして期待される人材の育成に、教育現場、特に英語教育関係者、はどう取り組めばよいのだろうか。

 

11月10日、東京・御茶ノ水で一般財団法人 英語教育協議会(略称ELEC)が文部科学省の後援を得て、「グローバル人材育成と学校教育現場での取組み」というテーマでシンポジウムを開催した。週末にもかかわらず英語教育関係者を中心に120名もの人たちが熱心に耳を傾けた。

 

冒頭、主催者を代表しELECの小池生夫理事長からシンポジウムの趣旨について発言があり、日本のグローバル人材育成への「国際競争での遅れ」、また「世界の潮流からはずれたガラパゴス的な英語教育」に対する危機感が表明された。日本はアジアでもっとも早く国家の体制を切り替え、近代化を実現した唯一の国であったにも関わらず、外国語教育政策に関しては世界史の潮流から外れてしまったのは皮肉だ、と小池氏。「急激なグローバル化の波をかぶって、日本の英語教育は今、その体質変化を求められている」とした。

 

また同氏は、グローバル化の進展のなかにあって、人間にとって最も必要なものは、「異文化、異人種との壁を越えて理解しあえる人類愛とその基盤となるコミュニケーション力」と指摘。それを可能にする道具としての「高度な英語コミュニケーション力」が、これからの日本人には不可欠と述べた。

 

 

まだ続く日本の「知の鎖国」

 

 

 

 

 

 

 

中嶋嶺雄理事長・学長

 

そもそも「グローバル化」とは何か。基調講演のなかで、国際教養大学の理事長・学長、中嶋嶺雄氏は「明日の世界を創造するというポジティブな概念がグローバリズム」と規定。世界のグローバル化がはじまったのは「東西冷戦の終焉とIT革命が地球を立体化し、時差というものが意味を持たなくなった」1990年代初頭とした。ところが日本の高等教育では、グローバリズムやグローバル化に逆行する事態が進行したと中嶋氏。具体的には、大学設置基準の大綱化による「教養教育の消滅」と「外国語教育のスポイル化」だったという。「日本は非常に閉鎖的であって知の鎖国という状況がまだ続いている」というのが同氏の見立てだ。

 

これまでの失敗を教訓とし、「国際教養」と「英語による授業」を特色とし中嶋氏が2004年に秋田で立ち上げたのが、いま話題の国際教養大学。創設から8年にしかならない地方の公立大学だが、グローバル人材育成のモデル大学として高い評価を得つつある。

 

国際教養大学の成功体験をもとに、中嶋氏が講演のなかで日本の英語教育改革のための具体策として触れたのが、1)幼児教育段階への外国語(英語)教育の導入。具体的には、小学校1、2年生段階階では特別活動、3年、4年生段階で国際理解教育、5年、6年生段階では英語の教科化 2)小学校、中学校へのALT活用の強化 3)小学校教員採用基準に英語を加える、そして4)英語教育における小中連携の強化などの施策だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

阿久津一恵特任教授

 

シンポジウム第二部のパネル発表では、モデレーター役に阿久津一恵氏(神奈川大学経済学部特任教授)を迎え、官界、経済界、教育界の最前線でこの課題に取り組んでいる行政官、教育者、専門家がパネリストとして登場。

 

「グローバル人材」については、青山学院大学名誉教授の本名信行氏から、内閣府や経済産業省などでは、1)語学力、 2)コミュニケーション能力、 3)チャレンジ精神、 4)協調性、 5)責任感、 6)使命感、 7)異文化間理解、 8)日本人としてのアイデンティティの確立、などを兼ね備えた人材、と定義しているとの紹介があった。

 

 

グローバル人材は300万人必要

 

 

 

 

 

 

 

 

市村泰男常務理事

 

果たして、このようなスーパー人材が今の日本にどのくらいいるのだろうか。パネリストの日本貿易会、市村泰男・常務理事によると、60万人程度ではないかとのこと。労働人口6300万人の1パーセントだ。「我が国におけるグローバル人材への需要は約300万人で、日本の労働人口の約5パーセントになると市村氏。毎年30万人強の大学卒業生のほぼ全員が「グローバル人材」になったとしても、まだまだ足りないのが実情だ。産業界から大学への要望として、「海外志向の強い学生をどんどん作ってほしい」と市村氏。

 

グローバル人材育成戦略として大学がどのような対応をしているのか、本名氏からいくつかの具体的な取り組みが紹介された。

 

 

 

 

 

 

 

本名信行名誉教授

 

英語による授業という面では、英語コースを併設している立命館大学国際関係学部の国際関係学科、英語と専門科目を融合させている明治大学国際日本学部、また大阪工業大学、千葉大学、金沢工業大学では英語力とその先進科学を結びつける授業で、英語が使える研究者・技術者を育成している。さらに、専門英語の習得、実践的キャリア開発、海外研修、留学等によって国際感覚を養成するなど、新機軸を導入している大学として、中京大学の国際英語学部、文京学院大学が来春からスタートする全学部横断の新教育プログラムなどだ。

 

 

小中高の視点から見たグローバル人材育成の課題

 

 

 

 

 

 

 

桑原洋会長

 

平成23年度より、小学校において新学習指導要領が全面実施され、第5・第6学年で「外国語活動」が必修化され、来春からは高等学校で「英語の授業は英語で行うことを基本とする」ことになるなど、我が国の初等中等教育レベルでの英語教育が大きな変革のさなかにある。全英連会長で都立田園調布高校校長の桑原洋氏は、小中連携、教員研修、ALTの活用、教材の在り方、大学入試の弊害などで現場の英語教員が直面している問題点や課題を率直に披歴。「新学習指導要領の目標を達成するための現場への具体的な支援がまだ不足している」とし、「英語がコミュニケーションの道具であるということを生徒に理解できるようなシステムや制度がまだ不足している」と指摘。会場では共感する人が少なくないようだった。

 

 

 

 

 

 

 

田渕エルガ室長

 

最後に文部科学省初等中等教育局国際教育課 外国語教育推進室の田渕エルガ室長から、小中高等学校における英語を中心とした外国語教育の推進に関する進捗についての詳細な報告がなされ、「国境を越えた活動は活発化し当然のものとなっている時代にビジネスやプライベートの分野で外国の方とやり取りする場面は増えている。やり取りを可能とする基盤として語学力は非常に大事で、語学力を理由にそうした場面を避けるよりも、積極的に関わることで個人としても国としても物心両面で豊かになることができるはず」と強調した。

 

「外国語教育については、何かこれ一つをやると効くという特効薬はない。ひとつひとつ地道に丁寧に取り組んでいくことで英語をはじめとして外国語能力の伸びにつながるはず。その中でも教員の力量が重要であり、教員研修(の拡充・強化)、そして大学入試が与える影響の大きさから、入試の在り方(の見直し)などを中心に施策を推進していきたい」と田渕氏。

 

時間の都合でパネリスト間の論議が行われなかったのは残念だったが、英語教育を取り巻く状況と現場の課題について認識を共有するうえで意義あるシンポジウムだったといえよう。

 

(取材・文責:編集部)

 

(2012年12月掲載)

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