一般財団法人英語教育協議会(ELEC)
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高等学校新学習指導要領の全面実施(3)

~英語で行う高校英語の指導の実際 2012年度ELEC春期英語教育研修会より~

 

 

佐藤 留美(さとう るみ)

東京都立西高等学校

 

平成25年度より、高等学校の外国語教育で新学習指導要領が年次進行で実施される。そのなかで特に注目されているのが「授業は英語で行うことを基本とする」こと。ELECは、『2012年度ELEC春期英語教育研修会』(2013年3月25日〜3月30日)の最終日(3月30日)に、「英語で行う高校英語の指導の実際(1)(2)」と題するワークショップを企画・開催した。講師は、長年英語による指導を実践されている東京都立西高等学校の佐藤留美先生。3月末の土曜日にもかかわらず、50名を超える高校の英語教員らが参加した。

 

 

4技能の総合的育成を目標にした授業づくり – 授業目標

 

ワークショップでは、佐藤先生の勤務校のカリキュラムや使用教科書を紹介したあと、すでに勤務校で行っている先生の授業目標を説明した。その目標とは——。

 

(1)1、2年次では英語で書かれたものは英語で理解し、書かれた英語を使用し、まとめたり、それに対する意見を英語で表現する力をつける。
(2)1、2年次にしっかりproductiveな、使える語彙力をつける。
(3)授業で英語を使用することによって触れる語彙を増やす。
(4)自ら進んで発言する意欲を引き出す。
(5)3年次は書かれたり、聞いたりしたものを日本語でまとめたり、日本語で書かれたものを英語で要約したり、日英の言語の違いに注目し2言語が使えるようにする。

 

この授業目標は、「コミュニケーション能力の育成」を掲げ、「4技能(「聞くこと」「話すこと」「読むこと」および「書くこと」)」を「総合的に育成」することを求めた新学習指導要領の目標を十分反映したものとなっていて、どの項目も、従来型の英文読解や文法の授業とは異なり、発信型のスキル習得に力点が置かれている。

 

 

教員が英語を使うことでクラスの雰囲気も変わる – 授業体験

 

授業体験は、『知の風景 国公立入試長文へのアプローチ』(山口書店)のChapter6 Internationalization and Diversificationを教材とした英語IIをモデルとして行われた。5〜6人のグループのメンバーが対面できるように机を配置し、参加した教員を生徒役にして授業体験に入った。

 

まずは英文の音読。その方法は、参加者全員を立たせて、音読させ、読み終わった人から着席していくというユニークな方法。そして単語の意味の確認は、英語で書かれたdefinitionから文中にでてきた英単語を考えさせた。さらに自分が1分間で読める語数を測る《Reading Contest》、自分の考えをまとめる《What do you think?》などの仕掛けもあり、英語によるコミュニケーション力を高めるためのメニューが実に豊富な点にまず驚いた。

 

しかも、これらのアクティビティはすべてグループやペアで行う。ストップウォッチを片手に、次々に作業内容を指示。生徒に退屈させない参加型の授業だ。佐藤先生によれば、参加型の授業にすることで、生徒の柔軟な発想や考えに触れることができて、先生自身が学ぶことも多いのだと言う。「教員自身が楽しくないと、生徒は絶対に退屈します」と実践する喜びを強調する。またグループにすることで生徒たちの間で発言する機会が増やせるのも大きなメリットだ。

 

その間の指示はすべて英語。「生徒に英語を使わせるためには、教員が英語を使わなければいけない。教員が日本語で、生徒には英語で、とは言えませんよね」と佐藤先生。英語を使わせるための雰囲気作りも含めて、教員が英語を使うことの重要性を説く。「英語で授業をすることは怖いかもしれないけれど、教員も英語を使うことによって英語が上達するのです。私の英語は今までの経験で培ったものです」。一方、生徒には、”Pick me!”(私をあてて)と言わせて挙手させるなど、英語による発言の自主性を育む工夫も見られた。ただ、文法の授業は日本語で行うほうが分かりやすいとも指摘。コミュニケーションツールとしての英語と、決まり事を学ぶための文法へのアプローチを明確に分けている。

 

 

英作文は生徒が使った英語を生かすことが大事 – 英作文の授業

 

次は英作文の授業を体験。教科書の英文を和訳したものを課題として提示した。参加者が各自英文を書いた後、グループで回し読み。他人が書いた文章から新たな発見ができるとともに、他人に読んでもらえるような文字を意識させることもポイントなのだそうだ。ここで気をつけるべきは、生徒の書いた英文を生かしながら、正しい文法や適切な単語を伝えることが大事だという。「生徒が書いた文章を全部×にして、解答例だけ書けば教員は楽ですが、生徒からすればせっかくの努力を台無しにさせられた気分になるのです」。表現方法にはさまざまな方法があることを知ってもらうことが実力になると先生は言う。

 

午後のワークショップは、「授業力アップのためのワークショップ」として、teaching planの作成を実践。各自で作成したものをグループでシェアしたあと、グループとしてのteaching planを作成して、グループごとに発表させた。

 

1日の最後には、理想とする教師像とよい授業のための4つの手順として、William Arthur Wardの言葉を全員で音読して1日のワークショップを締めくくった。

 

“The mediocre teacher tells. The good teacher explains. The superior teacher demonstrates. The great teacher inspires.”

“Four steps to achievement: Plan purposefully. Prepare prayerfully. Proceed positively. Pursue persistently.”

 

単語帳で単語を覚えて、文法問題を解いて、英文を読んで訳すといった英語授業との差は歴然で、教員自身が英語を使いながら、生徒とのコミュニケーションを図り、教員が生徒のグループのアクティビティに参加するという新しい授業スタイルのメリットを強く実感させる研修会でもあった。

 

 

(2013年5月掲載)

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