一般財団法人英語教育協議会(ELEC)
文部科学省 協力
Archive

アーカイブ

高等学校新学習指導要領の全面実施(2)

~授業づくりのポイント~

 

 

太田 光春(おおた みつひろ)

文部科学省初等中等教育局視学官

 

平成25年度から高等学校学習指導要領が年次進行で実施され、外国語科(英語)においては、「授業は英語で行うことを基本とする」ことになる。このことが授業の質の向上に資するよう、授業づくりのポイントについて述べる。

 

 

1. 親和関係をつくる

コミュニケーション能力を育成するためには、教師と生徒の間に親和関係が成立していることが不可欠である。親和関係は、相互信頼と他者に対する敬意を土台にして構築される。親和関係が成立することによって教室から過度の緊張がなくなり、誤りが受け入れられる雰囲気が生まれる。その結果、生徒は言語習得に必要なRisk-takingが安心してできるようになる。

 

2. 生徒の理解の程度に応じた英語を使う

生徒の英語によるコミュニケーション能力は、意味の交渉をしたり前後関係から意味を推測したりしながら、おおむね理解できる英語にたくさん触れることによって向上する。したがって、教師が授業で使う英語は、生徒の理解の程度に応じたものでなければならない。教師は、表情や反応などから生徒の理解の状況を絶えず把握するよう心掛け、必要に応じて、同じ表現を繰り返したり、話す速度をゆるめたり、簡単な表現に言い換えたりなどして、生徒の理解を確かなものにしなければならない。

 

3. 情報や考えを伝える言語活動をさせる

生徒の多くは、自分の得た情報や考え、気持ちなどを伝え合う言語活動が好きである。また、このような活動を通して、英語を用いてコミュニケーションを図ることへの自信を深め、その意義を体験的に理解する。したがって、授業では、教科書の内容について伝えたり、意見を述べたり、気持ちを伝えたりする言語活動が頻繁に行われなければならない。学習の過程では、ディクテーションなどコミュニカティブでない言語活動も、もちろん、必要である。しかし、授業を通してコミュニケーション能力の育成を図り、生徒を自律した学習者へと導いていくためには、伝えたい、あるいは、伝える必要のある事柄について、音声や文字を用いて伝え合う言語活動を中心に据える必要がある。

 

4. 達成可能な言語活動を準備する

生徒の英語に対する学習意欲を高めるためには、授業で取り組む言語活動で生徒が達成感を味わう必要がある。つまり、授業は、生徒が成功体験をする場でなければならない。したがって、教師には、教科書の内容を素材にして適切な言語活動を工夫することが求められる。言語活動については、少し難しいが挑戦する気を起こさせる活動で、しかも、教師の助言や他の生徒の協力によって全員が達成できるものが理想的である。

 

5. インタラクションを軸にして展開する

コミュニケーション能力の育成を目指す授業では、教師が一方的に話すより、インタラクションを軸にして授業を展開する方がうまくいく。生徒の何気ない発話を適宜取り上げて、扱いたい内容や身に付けさせたい能力につなげるようにすると、生徒の授業への参加意識や興味関心を高めることができるばかりでなく、積極的に発言する態度の育成にもつながる。コミュニケーションにおいては、双方が話し手と聞き手の役割を交互に果たすことが重要であることも学ぶ。

 

6. 音声形式や言語形式への気付きを促す

学習者の表現の正確さや豊かさを高めるためには、音声形式や言語形式に対して意図的に気付きを促す必要がある。授業では、生徒の自尊心を損なわないよう配慮しながら、コミュニケーションに支障のある誤りについてはクラス全体の問題として取り上げ、正しい音声形式、言語形式に気付かせる指導が求められる。生徒の誤りは指導の絶好の機会であり、生徒にとっては学びの機会である。決して叱責してはならない。

 

7. 教師が話しすぎない

授業時間の大部分は生徒の言語活動に当てられなければならない。学習の主体は生徒だからである。教師が説明しすぎたり話しすぎたりすることによって、生徒が考えたり、判断をしたり、話しあったり、書いたりする機会を奪ってはいけない。

 

8. ボランティアを募る

発言する生徒を指名することで授業を展開すると、生徒は次第に授業に対して受動的になる。発言したくて手を挙げたのに当てられなかった生徒は、以後手を挙げなくなる可能性がある。当てられた生徒は自分のことを不運に思い、当てられなかった生徒は関心を次の問題に移すかもしれない。結局、当面の問題について考えるのは当てられた生徒だけということにもなりかねない。このような事態を避けるため、できるだけボランティアを募るようにする。すぐに手が挙がらなくても辛抱強く待つ。ボランティアを募りながら授業を進める と、生徒は授業の主役が自分たちであることに気付く。そして、積極的に授業づくりに参加するようになる。限られた授業時間を最大限に活用するためには、教師の質問に対して常に生徒全員が考えるようにする工夫が必要である。

 

9. 正解が一つしかない質問は極力避ける

正解が一つしかない質問の多くは、知識を問うもの、あるいは、扱うテキストの内容が理解できたかどうかを問うものである。英語の授業で大切なのは本文の内容の理解ではなく、本文から得た情報やそれに対する考え、気持ちなどを、音声や文字を通して伝え合うことである。実際のコミュニケーションに必要なのも、同様に、語彙や文法の知識ではなく、それらを活用してコミュニケーションを図る能力である。授業を語彙や文法に関する知識の習得に焦点化しすぎて、外国語学習はおもしろくない、自分は外国語学習には向いていない、外国語は習得できないと生徒に思わせてはいけない。

 

授業時間の使い方としては、文脈から切り離した状態での、いわゆる、単語の小テストを数多く実施するよりも、汎用性のある語や表現、文法を、意味のある文脈の中でコミュニケーションの手段として使わせる方が適切であり、効果的である。なぜなら、そうすることで、生徒は、「知らない」という苦い経験をすることから解放されるばかりか、「使える」という実感ができるからである。

 

10. 動機づけとなるフィードバックをする

生徒が英語によるコミュニケーション能力に自信が持てるようになるまでには時間がかかる。目に見えて上達しないからである。生徒を自律した学習者へと導いていくためには、教師はあらゆる機会をとらえて動機づけをする必要がある。それには誉めることが一番だ。授業中は生徒をできるだけ誉めるようにする。ただし、容易なことに対しては大袈裟に誉めない方がよい。自尊心の高い生徒には逆効果になる可能性がある。

 

11. 思いの伝わる授業をする

動機づけのためには、教師が英語を好きだと思う気持ちや生徒の学びの可能性を信じる気持ちが伝わる授業を心掛けることが重要である。また、英語学習者としての後ろ姿を見せる授業をすることも大切である。生徒にとって教師は身近なロール・モデルなのである。

 

12. 妥当性と信頼性のある評価をする

授業で「即興で話す力」を伸ばす指導をしたとしたら、即興で話せるかどうかを評価しなければならない。「文章の要約を書く」指導をしたら、同レベルの文章で要約が書けるかどうかを評価しなければならない。指導と評価を一体化し、妥当性と信頼性のある評価をしなければ、生徒は誤った情報を手がかりにして次の学習に向かうことになる。教師には、筆記で設問に答える形式の評価だけでなく、パフォーマンス評価、まとまりのある文章を書かせる評価、面接による評価など、妥当性と信頼性のある評価方法を用いて生徒のコミュニケーション能力を正確に把握し、それを指導に反映させることが求められる。

 

 

(2013年5月掲載)

CONTACTえいごネットに関するお問い合わせ