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高等学校新学習指導要領の全面実施(1)

~英語を英語で教えることでコミュニケーション能力の向上を~

 

 

向後 秀明(こうご ひであき)

文部科学省教科調査官

 

平成23年度に小学校、24年度には中学校で新学習指導要領が全面実施され、いよいよ25年度より高等学校において年次進行で実施されます。外国語科では、科目構成が刷新されるのみならず、「授業は英語で行うことを基本とする」ことになります。新学習指導要領の実施に当たり、高等学校の先生方にはどのような心構えが必要なのか、どのような指導をしていけばよいのか、文部科学省初等中等教育局国際教育課外国語教育推進室の向後教科調査官にお話を伺いました。

 

 

各技能を統合的に扱い、4技能を総合的に育成

 

Q. いよいよ今年の春から、高等学校の外国語教育で新学習指導要領が実施されますが、その目標としていることをお教えください。

 

A. キーワードは、「小中高を通じたコミュニケーション能力の育成」です。この「コミュニケーション能力」という言葉で、3つの異なる学校段階の外国語教育を一つの線で結んでいます。ですから、初等中等教育レベルでの仕上げとなる高等学校では、このコミュニケーション能力を最終的に育成する、というステージになるわけです。

 

まず、コミュニケーション能力の育成というものの意味合いを、しっかりおさえておかなければなりません。それは、4技能(「聞くこと」「話すこと」「読むこと」及び「書くこと」)を「総合的に育成する」ということです。特定の技能に偏らない指導をするわけで、この4つの技能をもって、コミュニケーション能力が成り立つということです。新しい教育課程では「コミュニケーション英語」とカタカナが入っている科目もありますが、いわゆる“英会話”を学校で学ぶということではありません。4つの技能を総合的に育成するということが、中学校、高等学校を通じた大きな改善の方針です。そして、4技能を総合的に育成するためには、指導に用いられる教材が、生徒の外国語学習に対する関心や意欲を高めるものであり、同時に、外国語で発信しうる内容であることも重要です。

 

2点目としては、その4つの技能をバラバラに扱うのではなくて、「統合的に扱う」ということです。統合的というのは、2つ以上の技能を絡めて指導するという意味です。つまり、聞いたことについて話すとか、読んだことについて書くといった、受信から発信へとつながる言語活動を行うことが必要です。この統合的な指導を通して、4技能を総合的に育成する指導が求められます。その際、文法はコミュニケーションを支えるものとしてとらえ、文法指導と言語活動を一体的に行う必要があります。また、コミュニケーションを内容的に充実したものとするために、指導すべき語数は、「コミュニケーション英語」Ⅰ~Ⅲをすべて履修した場合、現行学習指導要領の1,300語程度から1,800語程度に増やしています。

 

以上の2点が、大きな改善の基本方針になりますが、もう一つ付け加えておきたいのは、中学校で学習した事柄の定着を図っていただくということです。それは、中学校での学習が十分ではない生徒が、高等学校における学習に円滑に移行できるようにするためです。外国語科において「コミュニケーション英語基礎」という科目を創設しているのは、そのためです。

 

 

一新される7科目のポイント

 

Q. 新学習指導要領の実施で科目構成が一新されますが、各科目ではどのような指導をすることが求められますか。

 

A. 高等学校の外国語科では、現行の6科目がすべてなくなり、まったく新しい7科目にしているのが大きな特徴です。

 

「コミュニケーション英語基礎」は、中学校と高等学校のブリッジ的な役割を果たすもので、日常的な事柄、身近な場面や題材などを扱って、4技能を総合的に育成します。中学校の学習の定着を図りますので、先生方には必ず、中学校の学習指導要領に戻っていただき、そこに示されている言語材料等を見て指導していただくことになります。ただ、あくまでも高等学校の科目ですから、それを踏まえた上で、高等学校の教育にうまくつながるようにしていただく必要があります。

 

「コミュニケーション英語」Ⅰ・Ⅱ・Ⅲも、4技能を総合的に育成する科目です。特に、「コミュニケーション英語Ⅰ」は必履修科目として位置付けていますので、この科目において、統合的な活動を通して4技能を総合的に育成し、コミュニケーション能力を養うことができるようにします。

 

「英語表現Ⅰ」と「英語表現Ⅱ」という科目も新設されています。今回の改訂の大きな特徴となっているのが、この「英語表現Ⅰ」と「英語表現Ⅱ」になります。これらの科目では、主に「話すこと」と「書くこと」の2つの技能を扱います。それから、「論理的思考力」と「批判的思考力」を養うことも狙っています。具体的な活動としては、例えば、スピーチ、プレゼンテーション、ディスカッション、ディベートなどを行うことになります。ですから、これらの科目では、まさに英語で発信する能力を育成します。そこで注意する必要があるのは、この新しい2科目は、文法事項を体系的に学ぶ科目では決してないということです。生徒の英語で話したり書いたりする活動が授業の中心となっていなければ、「英語表現」とは言えません。この点を、先生方には十分にご理解をいただく必要があります。

 

もう一つ、「英語会話」という科目があります。「英語会話」は、主に「話すこと」と「聞くこと」の技能を中心に扱う科目で、身近な話題についての会話だけでなく、海外での生活に必要な基本的な表現を使って会話することも含まれています。この科目では、音声を中心にコミュニケーションを図る活動が実際の教室で行われることになります。

 

Q. 文法に特化した科目はない、ということですね。

 

A. はい、ありません。これは、現行の学習指導要領でも同じことなのですが、文法だけを取り出して、コミュニケーションと切り離して教えるような科目は存在しません。文法事項については、今回、必履修科目である「コミュニケーション英語Ⅰ」ですべて扱うこととしています。その点で、新学習指導要領では、文法をより重視しているとも言えます。ただし、「すべて扱う」というのは、あくまでも言語活動と関連付けて扱うということです。例えば、「この能動態の文を受動態にしなさい」というような授業はありえない、ということです。これは、単に文法操作能力を試すものであり、そこにはコンテクストが存在していないし、場面も示されていません。そのような指導では、生徒が実際の場面で応用できるコミュニケーション能力を身に付けることは困難です。受動態であれば、受動態が使われる必然性のあるコンテクストの中でその文法事項に対する気付きを促して、そのあとに、形式にフォーカスをした指導でフォローする、ということはあると思います。しかし、「今日のポイントは受動態を作ることができるようになることです」という授業では困るということです。どの科目でも、文法はコミュニケーションを支えるものであるという認識をもっていただかなくてはなりません。

 

Q. 言語活動を通して文法を習得させたり語彙を増やしたりするということですね。

 

A. そういうことです。そのためには、多量の英文に触れるということがポイントになります。授業を英語で行う場合には特に、多量の英語に触れて、そこから徐々に習得をしていく、自分で使えるようになるまで慣れていく、というプロセスがあると思います。いい例が単語テストですね。単語集を使って、ある単語を英語と日本語を対比させることで覚えさせても、すぐに忘れてしまいます。また、その単語が実際の文脈の中で出てきた場合には、覚えていたと思っていた単語でも理解できないことが多い、ましてや、その単語を自分で使えるようにはならないというのが現実です。ですから、授業の中で、日本語を与えてそれに合う単語を書かせるといったテストをやっても、学習効率はかなり疑問です。サプルメンタリーの課題として出す、ということはあるかもしれませんが・・・。例えば、長文の中で、どうしてもこの長文を理解するキーとなる語を生徒各自で5つ選んで、英文とともに何度も読みましょう、声を出して言ってみましょう、というような指導のほうが、結果的には語彙は増えると思いますね。

 

Q. 今回、教科書も大きく変わりました。新しい7科目の教科書と学年配当との関係についてお教えください。

 

A. 決まっているのは順序性だけで、どの科目の教科書を何学年で使うという規定はありません。

 

「コミュニケーション英語」の場合、Ⅰ、Ⅱ、Ⅲの並びで、Ⅰ(必履修)が最初となり、その次がⅡ、その次がⅢ、という並びの規定があるだけです。また、「コミュニケーション英語基礎」を履修させる場合は、「コミュニケーション英語Ⅰ」の前に履修させることになります。例えば、一学年で「コミュニケーション英語Ⅰ」、二学年で「コミュニケーション英語Ⅱ」、三学年で「コミュニケーション英語Ⅲ」と履修しても構いませんし、一学年で「コミュニケーション英語基礎」、二学年で「コミュニケーション英語Ⅰ」を取り、三学年では「コミュニケーション英語Ⅱ」を履修して「コミュニケーション英語Ⅲ」はやりません、ということも可能です。さらに、「コミュニケーション英語基礎」は、中学校での学習事項の定着を図るという科目の性質上、例えば、一学年の前期で「コミュニケーション英語基礎」を行い、後期からは「コミュニケーション英語Ⅰ」を行うといった教育課程上の工夫をすることも重要です。平成25年度には、このような教育課程を組むところを含めて、多くの学校で「コミュニケーション英語基礎」を履修させるようです。これは、英語で行う授業に慣れさせるという点でも、生徒の学びのプロセスを十分に考慮していると思います。

 

「英語表現Ⅰ」と「英語表現Ⅱ」も、その順序性がⅠとⅡであるだけで、どの学年で履修してもかまいません。また、「英語会話」についても、いずれの学年で履修することも可能です。

 

新しい教育課程では特に、外国語科、そして各科目の目標を達成するために、教師が授業の中で教科書をどのように活用するかが大切なポイントになります。教科書の順番どおりに教えて、生徒たちが学習指導要領で求める力を身に付けることができれば問題ないのですが、それが難しいと判断した場合には、必要に応じて、教科書で扱う順番を入れ替える、活動の難易度を調整する、目標によって内容を取捨選択する、といった工夫が求められます。例えば、「英語表現Ⅰ」の教科書で、単元の前半に文法事項などの言語材料が並べられ、その理解を定着させるための問題が続き、最後に単元のテーマについて話し合う活動が示されていたと仮定しましょう。繰り返しになりますが、「英語表現Ⅰ」は文法事項を体系的に学ぶ科目ではありません。この科目の目標やこの科目で行う言語活動を考えれば、単元の最後にある「話し合う活動」ができるように指導することがポイントになります。ですから、次のような指導過程や教科書の扱いが考えられるでしょう。

 

① まず始めに、単元の最後にある言語活動を生徒に示し、何について、どのような話し合いをすることができるようになることが目標であるかを示す。
② 生徒とのインタラクションを通じて、話題に対する生徒のモチベーションを高めるとともに、スキーマの活性化を図ったり必要な表現を導入したりする。
③ 教科書の前半に書かれている言語材料を、与えられた話題について話し合うために必要な文法事項や表現に絞って、必要に応じて指導する。
④ 話題に対する理解を深め、更なる情報を得るために、生徒各自でリサーチをするとともに、得た情報を整理してまとめる。
⑤ リサーチをして得た情報を参考にしながら、自分自身の意見や考えをメモ書きしてまとめる。
⑥ ⑤で用意したメモを参考にしながら、グループで意見などを伝え合う。
⑦ 各グループで出された意見などを集約し、グループごとに発表する。

 

よく言われているように、「教科書を教える」のではなく、「教科書で教える」ということです。この考え方が定着しないと、「はい、今日はレッスン2の最後までいきますよ」といった指示を出すことになりかねません。「レッスン2の最後までいく」ことは目標になり得ないので、「この能力を身に付けるための教材としてレッスン2を利用します」という考え方をすることです。

 

Q. 新しい科目の学習評価について、どのようなことに注意していけばよいのでしょうか。

 

A. 指導計画を立てる際に、学習到達目標と併せて学習評価の具体策をどうするかというところを同時に考えていくことが、指導と評価を一体化させた指導計画を作成するためのポイントになります。

 

例えば、「話すこと」について設定した学習到達目標のそれぞれについて、いつ、どのように評価するかということを考えておかないと、指導計画を作って授業をしていったが、評価まで気が回らず、結果的に「話すこと」の評価をする時間がなくなってしまった、などということになりがちです。

 

「コミュニケーション英語Ⅰ」の評価を例にとれば、定期考査などによる筆記テストが評価全体の8割を占めるというようなことは、通常考えられません。この科目では4つの技能をすべて扱うわけですから。「話すこと」の能力は話すことを通してしか評価できませんので、例えば、インタビューテストなどを行う必要があるでしょう。また、「書くこと」については(これは筆記テストでできるかもしれませんが)、実際に英文を書かせて評価することになります。また、定期考査だけに限定せず、日常的に各技能の評価を積み重ねていくことが大切です。総括をする際、4技能のすべてを評価しているわけではない定期考査の比重が大きくなりすぎないよう注意が必要です。

 

それに対して、「英語表現Ⅰ」と「英語表現Ⅱ」は、「話すこと」と「書くこと」の技能を中心に扱う科目ですから、評価は、当然、その2つの技能に対する評価となります。これらの科目に、観点別学習状況の評価における「外国語理解の能力」の観点が入ることはありません。また、「英語表現Ⅰ」で筆記テストによる定期考査を行うとした場合、そこに文法や語法の問題が並んでいるなどということはあってはいけないことです。特に「英語表現」Ⅰ・Ⅱでは、生徒に実際に話させたり書かせたりしないと評価ができないので、「話すこと」については、定期考査ではない場面、例えば、日常の授業を利用して評価したり、「書くこと」については、30分間の一斉ライティングといった評価を積み重ねていくことになります。「英語表現」Ⅰ・Ⅱでカバーしなければならない文法事項というものはありません。くどいようですが、これらの科目の指導と評価は、あくまでも「話すこと」と「書くこと」にフォーカスをすることになります。

 

Q. 学習評価でなにか参考になるレファレンスをご紹介ください。

 

A. 国立教育政策研究所が出している「評価規準の作成,評価方法等の工夫改善のための参考資料」を最初に読んでください。ここには、「話すこと」の評価として、インタビューテストの例も出ています。国立教育政策研究所のホームページでも公開されていますが、冊子も購入できますので、ぜひ活用してください。冊子の方が最終版です。

 

また、文部科学省では今年度、全国218校の高等学校及び中等教育学校後期課程の第3学年の生徒約5万1千人を対象に、英語力の検証調査を実施しました。この調査は、日本英語検定協会の「英語能力判定テスト」をベースとした試験と、ベネッセコーポレーションの「GTEC for STUDENTS」をベースとした試験によって行われ、初めて対話型によるスピーキングテストも導入しました。現在、調査結果を取りまとめていて、3月末までには結果分析と指導改善の方向について公表する予定です。この調査におけるスピーキングテストの実施方法や「話すこと」の評価の在り方、ライティング問題の出題方法などは大変参考になると思います。高校3年生が各技能についてどれくらいの力をもっているのかがわかりますので、是非、報告書をお読みください。また、生徒と学校に質問紙調査を行っていますので、その結果も併せて発表する予定です。

 

※参考資料
評価規準の作成,評価方法等の工夫改善のための参考資料(高等学校 外国語)

~新しい学習指導要領を踏まえた生徒一人一人の学習の確実な定着に向けて~
(平成24年7月 国立教育政策研究所 教育課程研究センター)

 

 

生徒が教室で英語に触れる機会を拡充する

 

Q. 「授業は英語で行うことを基本とする」ことの狙いについてお話ください。

 

A. 残念ながら教室から一歩外に出れば、英語を使う機会はほとんどないのが日本の現実です。ですから、生徒が英語に触れる機会を拡充することが大きな狙いの一つです。また、教室の中を実際のコミュニケーション活動の場にするという狙いもあります。そのために、教師は英語で授業を展開するということになります。同時に、もっと大切なのは、生徒が英語を使って言語活動を行うことです。したがって、教師だけが延々と英語を話しているような授業は想定していません。教師が一生懸命になって英語をうまくしゃべることに集中してしまい、肝心の生徒はポカーンとしているという状況も見受けられます。これではダメです。必ず生徒とのインタラクションを通して、生徒の理解度を確かめながら授業を進めていただきたいのです。そうすると、必然的に生徒の理解度に応じて、話す速度を変えたりとか、使用する語彙のレベルを少し下げてみたり、一度話したことをパラフレーズしたり、ということが出てきます。あくまでもコミュニケーションの手段として、生徒とインタラクションを図りながら授業を英語で行っていただく、ということです。

 

具体的には、簡単な指示やウォ-ムアップだけを英語でする、ということではなく、授業全体を英語に変えるということです。ですから、教科書の内容を理解させる場合、その手助けをする場合、グループ・ワークがうまくいくようにフォローする場合、これらもすべて英語で行うことを基本とする、ということになります。

 

Q. 生徒に日本語で理解させないと不安だというような声もよく聞きますが。

 

A. 日本語に落とすことが英語を理解することになるわけではありません。日本語にしてわかったと思っているのは日本語だけで、英語そのものはわかっていないし、身に付いていません。生徒にもそのことを説明しておく必要があります。また、教材中の英語が複雑すぎるために日本語で説明しないと理解させることができないと言う人もいるようですが、その場合、教材のレベルが生徒に合っているかどうか、英語で言語活動を展開するのにふさわしいものかどうかを再検討してください。教科書などの教材の選択は、教師が責任をもって慎重に行わなければなりません。内容理解で苦しむだけの教科書では、多くの生徒は英語を学ぼうという意欲が湧いてこないと思います。

 

Q. 英語による言語活動を充実させていくために、どのような工夫が必要でしょうか。

 

A. 質問する側も解答する側も、互いに共有している情報についてQ-Aなどのやりとりを続けても、言語活動は活発化しません。とにかく話そう、聞こう、という意識が生徒の中に起きていない状況がまだ多く見受けられます。これは、教科書の内容理解だけで言語活動をすることの限界です。教科書で扱った話題や問題について、自分たちの意見や考えなどを話し合ったり書いたりする活動を入れていく必要がありますね。このような活動では、基本的には教科書のどこにも書かれていないことを伝え合うので、聞き手や読み手も、聞いたり読んだりする意味がでてきて、本当の意味でのコミュニケーションが発生します。

 

また、特に話したり書いたりする活動では、それを可能にするためのサポートが大切です。例えば、ディベートの要素を取り入れたグループ・ワークであれば、与えられた論題について、生徒Aが肯定の立場から意見を発表、生徒BがAの発表内容を要約、生徒Cが否定の立場からAへ反論、そして、これらの各役割をローテーションさせていくというように、わかりやすいフォーマットを与えることも効果的です。また、扱う話題について話したり書いたりするために必要な表現を与えて、それを実際に使えるようにしているかどうかということも大切です。よく中学校でもあるのですが、あるテーマについてYes/Noを言わせた後、Why? という質問を先生方はしがちです。これ自体、決して悪いことではないのですが、生徒にとってこれほど答えるのが難しい質問はありません。理由を述べることができるようになるためには、教師が最初に様々な理由を例示したり、提示された理由についてクラス全体で意見や感想を出し合ったりするなどの活動を通して、どのようなことをどのような構成で言えばいいのか、その際、どういった表現を使うことができるのかといったことがわかるような手立てが必要になります。

 

※参考資料
「文部科学省 言語活動の充実に関する指導事例集【高等学校版】」

 

Q. 生徒にどのようなサポートを与えるか、ということですね。

 

A. そうですね。教科書に出てきた問題について、“Do you think this is a good idea?” とか “What do you think you should do to solve the problem?” といきなり聞かれても、生徒は困ってしまいます。どのような言語活動をするにしても、教師がロール・モデルとなって、必ずサンプルを示してあげてください。例えば、私はこう考えるよ、というアイディアをプレゼンテーションソフトを利用して出してあげるとか、私はこう考えるけど、英語科の別の先生はこう考えていたよ、といったものをポーンとスライドで示してあげる。そうすると、どんどん、英語が教室に広がっていくんですね。

 

同時に、生徒が本当に意見を言いたいとか書きたいと思うことをテーマとして扱う、あるいは、そう思えるように生徒を話題に引き込んでいくようにすることが大切です。そのようなテーマについて、教科書だけに頼るのではなく、関連した英文をたくさん読んだり、生徒自身にリサーチさせたりするなどの活動を通して、英語を使いながら論理的思考力と批判的思考力を養うようなプロセスになっていないと、深みのある言語活動は期待できません。英語そのものは苦手でも、そのテーマについてはどうしても自分の考えを言いたい、という生徒が出てくるわけで、それを言わせないとダメですね。

 

それと、生徒が産出する英語に間違いがあるのは当然のことで、それを教師が拾い上げてフォローする必要があります。教師は生徒の発話を理解しようと努め、例えば、より適切な表現でパラフレーズしてあげることで、英語そのものについても生徒に気付きを与えることができます。

 

生徒には、誤りを恐れずにどんどん発信していく、そんなrisk-taking attitudeを備えてもらいたいんです。そのためには、書かせてから話させるという指導だけでは不十分です。一生懸命になって辞書を引いて、使ったこともない単語を入れて“原稿”を書き、それを丸暗記してきれいにスピーチしようとしても、効果的なコミュニケーション能力の育成には結び付かないのです。それよりも、準備はメモ書き程度におさえて話すといった、即興性の要素を含んだ活動を多く取り入れていくことが大切です。書いてから話すという流れだけでなく、話してから書くという経験を生徒に積ませてください。そして、うまく話せなかったことを振り返りながら、どのように言えばよかったのかを考えたり調べたりしながら書くようにすれば、より充実した言語活動となります。

 

 

大きく変わりつつある大学受験の英語

 

Q. コミュニケーションとしての英語を学んでも大学受験には役に立たない、という声が少なくありませんが・・・

 

A. まったく問題ないですね。例えば、一部の国公立大学の入試問題には英文和訳があり、日本語で部分的なアウトプットをさせています。ただし、全文和訳をさせている大学は一つもありません。部分和訳をさせているところでも、コンテクストを追っているかどうか、その流れに沿った中で該当部分の意味をとっているかどうかということを、多くの大学では問うています。それは、英語による授業でいろいろなタイプの英語にたくさん触れて、短時間で多量の英語を処理することに慣れていたほうが、結果的には優位です。実際、国立教育政策研究所教育課程研究センターの指定校になった学校では、それまでの主に日本語を使用した文法訳読の授業から、ほぼ全てを英語で行うコミュニケーション能力育成のために授業に転換していますが、大学入試で不利になったという学校は1つもありません。逆に、日本語で授業していた時よりもいい結果が出たというケースばかりです。英語によるコミュニケーション能力は、大学入試に必要な英語力を包含していると考えることができると思います。

 

ただ、同時に、大学入試については、大学自体も今のままでいいのかどうか、十分検討していただく必要があると思います。とにかく、日本語でアウトプットさせるというのは、基本的には英語によるコミュニケーション能力を測っていない可能性があるのではないかということを考えていただきたいのです。国公立大学の二次試験で英文和訳が出ることを気にされている先生方もいるようです。英文和訳が出るので、授業でも英文和訳をやるべきだ、と短絡的な結び付きになるんですね。このようなbackwash effectが出ていることを、入試問題を担当される方には知っておいて欲しいと思います。

 

しかし、英語の入試問題は改善されてきています。高校の先生方はまず、圧倒的に英語の量が多くなってきている入試問題を実際に解いてみて、日本語での授業をやっていて本当に効果的かどうかを体感する必要がありますね。また、問題も解答も英語だけで、日本語を一字も書かせない大学も出てきています。これが今の流れですが、一部の高校の先生方は、まだ昔のイメージをお持ちなのかもしれません。短時間で、多量の英語を処理する力をつけるためには、やはり、日本語を介在させる余地を少なくするしかないですね。

 

※参考資料
「国立教育政策研究所教育課程研究センター 研究指定校・地域事業」

 

 

世界において薄まる日本人の存在感

 

Q. 小中高大の連携、その中での高等学校における英語教育の役割についてお話ください。

 

A. 小学校の外国語活動は、英語に興味・関心を持たせるという重要な役割を担っています。中学校の学習指導要領には明記されていませんが、小学校で外国語活動を経験して上がってきた子どもたちを、授業が英語で行われる高等学校に送り出すために、中学校でも授業はできるだけ英語で行うということですね。この関係がしっかりしていないといけません。そして、初等中等教育レベルの出口となる高等学校における外国語の目標はコミュニケーション能力を養うことであり、これ以外の目標はありません。文法事項を説明できる力でもなければ、英文和訳する力でもありません。そのようなコミュニケーション能力をもった学生を受け入れることになる大学では、専門を英語で学ぶことができるようにする必要があると思います。例えば、経営学を英語で学ぶということです。さらに企業では、必要に応じて、仕事を英語でもできるようにすることが求められていくでしょう。

 

こういった流れが小学校から社会人までできていないと、世界の中で私たち日本人の存在感が薄れてしまうのではないかと危惧しています。日本企業ですら、英語に苦手意識が強い日本人を使うよりも、他のアジアの国々の優秀な労働力を入れたほうがいいということにもなりかねません。日本人だけが置いていかれるわけにはいきません。入試をゴールとするのではなく、グローバルな社会で生きていく子どもたちの将来を見据え、より大きな視点で英語教育の改善を図っていくことが必要です。

 

 

(2013年5月掲載)

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