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英語で行う高校英語の指導の在り方と授業づくり(3)

リーディング理論に基づく効果的な指導を考える

 

寺内 正典(てらうち まさのり)

法政大学教授

 

平成25年度から年次進行で実施されている高等学校新学習指導要領において、「英語の授業を原則として英語でおこなう」こととなっている。今年のELEC夏期英語教育研修会の最終日の8月16日には、「英語を教える」から「英語で教える」授業へ転換することの意義と方法について理論と実践という観点からの研修がなされた。

 

午前は、吉住香織氏(國學院大學非常勤講師)が「生徒のやる気を引き出す高校英語指導の視点と仕掛け」と題した講座を、午後には法政大学教授の寺内正典氏が「リーディング理論に基づく効果的な指導を考える」というテーマの講座を担当した。最新の言語学や外国語としての英語教授法に裏打ちされた授業のあり方について、現職英語教員らが知見を得る機会となった。

 

 

第二言語習得理論に基づく効果的な読解指導とは

 

夏期研修の最後に登壇したのが法政大学の寺内正典教授。第二言語習得研究、第二言語処理研究に基づく読解指導研究に多年に渡って取り組んでいる寺内氏。今年の研修テーマは、「リーディング理論に基づく効果的な指導」で、「英語の授業は英語で」という新しい環境にあって、読解(リーディング)指導をどのように変えていけばよいのか、理論と実践とのインターフェイスを重視したアプローチからの講座となった。

 

冒頭、寺内氏は興味ある調査結果を提示。それは、同教授が所属するELEC同友会英語教育学会の会員である中学校、高等学校、大学などの教員を対象とした「読解指導に関する実態調査」(2013年6月実施)。10年前に実施した同様の調査結果と比較することで、読解指導の量的変化、質的変化を分析したもの。この10年間で英語教育はコミュニケーション重視へと大きく方向転換したが、今回の調査結果では、中学から大学のどのレベルにおいても、読解指導において「文構造の解説」に力点を置く、と答えた教員が増加していること。とくに中学校では激増している。また、生徒が読解につまづいた場合の指導として、中学校と高校では「難解な語彙の理解」よりも「文構造に着目し、構文をとらえさせる指導を重視する」と答えた教員が圧倒的多数であった。

 

一見、コミュニケーション重視と逆行するような結果だが、「文構造をきちんと習得させないと、英語でのコミュニケーション活動がうまくいかない、と現場の英語教師が考えていると理解すべき」と寺内氏。つまり、内容を正確に読み取らせ、読み取った問題に関して、教師の誘導的発問により生徒に深く考えさせながら、自分の意見を発言させ、議論させることを重視する。このような指導を通じて発話内容も議論の内容の質も高まっていくので、読解指導を我が国の英語教育の基盤に置きながら、英語による確かなコミュニケーシュン能力を高めていくべき、という寺内氏の主張にもつながる。

 

この主張は「文法訳読法」の意義を見直せ、ということではなく、リーディング指導の改善のため、文構造を意識的に理解させることを授業に組み込むこと。また、英語でリーディング指導をすることを大前提としながらも、学習者の熟達度に応じてパラグラフ間の論旨を日本語で要約させることや、英語の要約文を作成させる過程で日本語でまとめ発表させることも、内容理解やパラグラフ構成・展開を確認・深化させるという観点から必要である、と寺内氏。

 

それでは、英語教師の授業改善のために、「言語機能に基づく授業談話分析」の手法を授業活動の現場で、どのように生かせばよいのだろうか。

 

寺内氏は、授業分析の手順として、

 

1) ビデオやICレコーダーによる授業の記録
2) 教師と生徒の発話を文字に書き下ろす
3) 各々の発話を言語機能の下位カテゴリーごとに分類した授業談話分析
4) 教師の発話の問題点摘出と改善点の考察、

 

という一貫作業を推奨する。

 

教師と生徒の発話が原則として英語であるため、教師発問(質問)の言語機能としては、例えば、テキスト内容を正確に理解していれば答えられる発問、生徒が推論したり内容を統合すると答えられる発問などに分類すること。また、生徒の応答については、質問を正しく理解できているかどうか、語彙や文法的な誤りを含んだ応答になっていないかどうか、内容理解の誤りを含んでいないかどうか、などをチェックする必要がある。

 

そのうえで、質問を繰り返したり、ヒントを与えたり、発言を再確認することで、生徒を正しい答えに導くためのフィードバック、そして生徒の発言を評価(Good job!など)したり、補足説明や修正・改善を促すための教師の発話など、それぞれの場面における教師発問を言語機能別に分析し、授業改善を図ることが肝要である、と寺内氏。

 

さらに、「指導案・指導展開例を、教材の持ち味や生徒の熟達度やニーズに応じて立案・作成できる力」こそ、英語教師にとって本当に必要な能力でもある、と寺内氏は指摘している。

 

(文責:編集部)

 

 

(2014年9月掲載)

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