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英語で行う高校英語の指導の在り方と授業づくり(1)

英語で教える英文法 ~典型的場面で導入し、活動により使い方を体験させよう~

 

 

卯城 祐司(うしろ ゆうじ)

筑波大学教授

 

平成25年度より施行された新学習指導要領において、高等学校では「授業は英語で行うことを基本とする」こととされ、2013年12月に文部科学省より発表された「グローバル化に対応した英語教育改革実施計画」では将来的に中学校でも「授業は英語で行うことを基本とする」とされている。ELECは、夏期に3週間実施している『ELEC夏期英語教育研修会』(2014年7月28日~8月16日)の中で「どのように英語で授業を行えばよいか」をテーマにした講座を複数開催したが、その中でも筑波大学の卯城祐司教授が担当した8月5日の講座「英語で教える英文法」には、猛暑の中70名近い英語教員が参加。卯城先生は、文部科学省の様々な検討会の委員として国の教育政策にかかわる一方、全国英語教育学会、小学校英語教育学会の会長として日本の英語教育を牽引している一人。

 

 本講座は卯城先生の編著である『英語で教える英文法:場面で導入、活動で理解』(研究社)の内容を研修として実施したもの。「英語で教える英文法」というタイトルは、「英語で英文法の指導を行うのは難しい」という先入観に挑んでいるようにも聞こえるが一体どのような内容なのだろうか。

使える英語を身につけるための新しい授業の形

 

研修は和やかな雰囲気の中、「英語で教える英文法」の意図を解説するところから始まった。

 

決して文法の定義や操作についての説明を英語で行ったり、英語の文法用語を使って指導したりすることではなく、「生徒が教室で学んだ時とは異なる新たな場面でも、英語が使えるようにするための、新しい授業の形を考えていこう」というのが大きな目的と卯城先生。具体的には、各文法事項が使用される「典型的な場面」を提示することで導入を行い、実際に活動させることでその文法の使い方を理解させることを狙っている。

 

理解しづらいような場合には、必要に応じてさらっと文法を日本語で説明してもよい、と日本語の使用も否定していない。ただ日本語を使い始めると英語への切り替えが難しく、日本語が長くなりがちなので、さっと引き上げるのが大切だという。

 

この方法で得られるものもあるが当然デメリットもある。「一部の大学入試で見られるような、コンテクストの少ない穴埋め問題に対応するには、授業外の時間で問題演習・添削などが必要になるだろう。ただ、それを授業で行っても英語は使えるようにならない。授業で目指すことは、生徒が自分のことばで英語を使えるようにすること。」と卯城先生は語った。

 

研修目的を共有したところで、講座はパワーポイントで要点を示しながら講義形式で進められた。場面での導入を行うために押さえておくべき事項として「場面」、「シラバス」について整理していく。

 

まず、言語の使用場面には、①特有の表現がよく使われる場面(あいさつ・自己紹介・道案内など)、②生徒の身近な暮らしにかかわる場面(家庭での生活・学校での学習や活動・地域の行事)の二つがあることを確認。続いて、シラバスの種類を整理する。シラバスには文法シラバス、場面シラバス、話題シラバス、概念・機能シラバスなどがあるが、日本の中学校・高等学校の教科書は学習する文法項目を核にして構成されているので「文法シラバス」にあたり、英会話学校での教材は「買い物」等、場面を想定して用いられる表現や使用される典型的な語彙などから構成される「場面シラバス」にあたる。学校で使用する教科書は「文法シラバス」だが、場面で導入することによって「場面シラバス」の要素を加味していくのだという。

 

文法事項が使われる典型的な「場面」を考える

 

次に、実際にどのような「場面」で導入すればよいのか、具体例が提示される。

 

言葉で明示的な説明をしなくても、会話文とそれに伴う動作によって、文法が感覚的に理解できる具体例を紹介していく。まずは、”I’m standing up. I’ve just stood up. “ といった教室内で実際に成立する会話例を用いて、実際に立ち上がる、ペンを持つなどの動作を伴いながらペアで発話の練習をおこなった。続いて、スポーツをしている写真を示しながら、”What is she doing?” ”Curling.” “Yes, she is playing curling. How about this picture? What is he doing?” …と話を展開していくケース。前者は自由度が少ない(統制度が高い)活動で、後者は少し自由度が高くなっている。ただし、自由度が高ければ良いというものではなく、「活動の自由度」・「取り組みやすさ」の2軸でレベル設定し、目の前の生徒の実態に合わせた活動を行えるようにすることが重要と卯城先生。

 

いよいよ後半は、実際に文法事項を導入する「場面(会話)」を考えるワークショップに移る。Pearson社発行のコースブック、『SIDE by SIDE』から抜粋された会話文を参考にしながら、4名で1組のグループになり、実際に現在進行形を使う典型的な場面(会話)を考え、発表する。今実際に教室で行われていることに焦点を当てたり、「普段は~するが、今は…している」というように現在形と対比することにより、現在進行形の使い方を感覚的に理解できるよう工夫している例が多く見られた。「携帯電話を触っている生徒がいて、それを講師が注意する」「職員室に質問をしに来たが、A先生は食事をしている」等、グループの数だけ「場面」も作られ、会話例が紹介された。各グループが考えた多くのアイデアをシェアできるのも本講座のポイントの一つだ。続いて比較級を導入する場面についても、同様にグループで考え、いくつかのグループが発表をした。

 

 

改善を重ねて、生徒が英語を使えるようになる授業を

 

講座の最後に卯城先生は、教え子からの手紙を紹介しながら「我々が授業を改善していくことで、生徒が心からわかったと感じる機会を多くする、そして生徒が少しでも英語が好きになれるよう、また授業を楽しめるようにしていくのが大切なのではないか」と語り、研修を締めくくった。

 

受講生からは、どのように文法を指導すればよいか悩んでいたが、場面で導入するという方法を取り入れてみたいという声や、ワークショップで実際に場面を考え、それをシェアしたことで学びが深まったという声が多かった。また指導方法だけでなく、英語教員としての在り方を考えさせられたという声もあった。

 

えいごネット「専門家に聞く」では、2013年5月に「高等学校新学習指導要領の全面実施」と題して、文部科学省の向後調査官による新学習指導要領解説を掲載している。そこで調査官は文法の指導に関して「文法事項はあくまでも言語活動と関連付けて扱うこと」「(ある文法事項が)使われる必然性のあるコンテクストの中でその文法事項に対する気づきを促す」というポイントを示していたが、本講座はそれを授業で実現する具体的な方法を示すものであった。

 

 

(文責:編集部 森真理子)

 

※関連ページ

 

えいごネット「専門家に聞く」
高等学校新学習指導要領の全面実施 ~英語で英語を教えることでコミュニケーション能力の向上を~
向後秀明 教科調査官

 

 

卯城先生に聞きました

Q. この方式で文法を教えるには、教科書に出てくるテキストだけでは足りないと思いますが、どのようなソースから会話文例を入手すればよいでしょうか。おすすめの入手先がありましたら、教えてください。

 

A. 中高学習指導要領解説には、「言語の使用場面の例」として、「a 特有の表現がよく使われる場面」と「b 生徒の身近な暮らし(や社会での暮らし)にかかわる場面」、「c 多様な手段を通じて情報などを得る場面」などが紹介されていますが(bの括弧内とcは高等学校)、具体的な場面を考える上で参考となります。また、海外の映画やドラマのDVDやスクリプトは入手可能ですが、それらをもとに文法導入にふさわしい場面のデータベースを構築しておくと役立ちます。何より、普段から生徒たちの興味・関心に心を寄せて、様々な場面を頭の中でシミュレーションすることが大事です。

 

※参考:

 

・文部科学省 中学校学習指導要領解説 外国語編 (p.25~)

http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2011/01/05/1234912_010_1.pdf

 

・文部科学省 高等学校学習指導要領解説 外国語編 英語編(p.38~)

http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2010/01/29/1282000_9.pdf

 

(2014年9月掲載)

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