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図書館を活用した多読多聴で英語の読解能力を伸ばす

 

鬼丸 晴美(おにまる はるみ)

明星中学校・高等学校 教諭

 

明星中学校・明星高等学校には、まるでハリー・ポッターの世界に入り込んだと思うような図書館に約3万冊の英語の蔵書があります。同校ではこの蔵書を活用し、中学1年から3年までは総合科目で、高校1年では英語科と連携することで英語の読解能力を飛躍的に伸ばしています。図書館のコンセプトから選書、英語科との授業連携までを担当し、多読多聴学習を主導する鬼丸晴美先生にお話を伺いました。幼・小・中高(英語)教員免許を持ち、司書教諭の資格を有する鬼丸先生は、日本多読学会や日本学校図書館学会の理事にも就任されています。

 

 

Q. 多読・多聴は昔からある英語学習法です、なぜ今の子どもたちに取り入れようと思われたのでしょうか。

 

A. 私が多読をはじめたのは図書館司書教諭として生徒たちと接する中で、「みにくいアヒルの子」とか「長靴をはいたネコ」のような世界中の誰もが知っている名作を知らない子がいっぱいいるということに気づいたからでした。そうした子どもたちは日本人であれば知っているような童話や昔話にも触れていないということです。高校生に日本語で「三匹のこぶた」や「桃太郎」の本を進めるわけにはいきませんが、英語で書かれた同タイトルのものなら読んでもらえると思ったのです。もっといろんなことを知って、世界の常識・知識・教養に繋げてもらえたらと思いました。それには英語圏で母語である英語を学び始めるころに読む英語の本が役に立ちます。また、英語の本には子ども向けノンフィクションが非常にたくさんあります。読んで論理的な表現に気づいたり身につけたりするのはもちろんのこと、世界中の子どもたちがノンフィクションで様々なことを学んでいることも同時に知ってほしい。アメリカの小学生の教科書に「meltdown」と題するものがあり、チェルノブイリ原子力発電所事故、スリーマイル島原発事故とともに、福島の原発事故の話が載っています。この事実をどのように考えますか。すでに海外では教材として使い、起きた事故の事実と教訓、これからどのようにエネルギー問題を考えるかなどを学んでいる。これからのグローバル化社会で日本の生徒が知らなくていいはずがありません。本はいろんなこんなことを教えてくれます。教科書で学んだら、一歩踏み出し様々な本と言語に触れてほしいと思います。これからお話しする多読多聴は、始めるのに遅いことはなく、誰にでもできるメソッドでもあるのです。

 

 

Q. 多読・多聴授業を何から始めたらいいのかお聞かせください。

 

A. まず学年に関わらず幼児向けの本からスタートします。絵本を選ぶ方もいますが、その国の文化を知っていないと理解するのが意外と難しく、挿絵や図版だけでもある程度の理解ができてしまいます。ネイティブの子供たちが母語を学習するのに使う幼児向けのものが、多読導入では適していると思います。その際は、音声教材がついているものを選んでください。

 

私の授業ではアメリカの大手教科書会社Scholastic社のSight Word Readersのシリーズを使います。Sight Wordとは、音を聞いただけでも、字を見ただけでもイメージができる、正しく綴れる、読める、字を見て発音ができる、といったように自由に使える単語のことを言い、アメリカでは小学校入学前に200語程度習得していることを求められているそうです。たとえば、seeというと「見る」という意味だけが浮かびます。しかし、seeには幅広い意味をカバーすることができ、「確認」という意味まである。Oxford Reading Treeの「SEE」などを見るとよくわかります。ネイティブが日常使っているseeという単語の意味の広がりを学ぶことを4技能の核にもってきています。

 

 

 

Q. 具体的にどのように授業を進めていくのでしょうか。

 

A. 音声をシャワーのように浴びることが大事です。言語野に英語音声をinputし、直ちにoutputするシャドーイングについて最初に詳しく教えます。たくさん聞かせて、耳から入ってきたものを即座にたくさん口にだす。「無理だ」「難しい」という気持ちを抱かせないというのがポイントになります。英語多聴で注意したいのは、「聞き滑り」です。流れてくる音を聞いてはいますが頭に入っていない、何か音が聞こえているだけといった状態のことです。一つの動作・活動(聞く)だけだと15分間であきてしまいます。集中力を持続するためにも、感覚的なものをフル活用させたい。文字を指でなぞって触れて、目で文字を見て、耳で音声を聴いて口に出す。この一連の動きをすることで、聞くから聴くに生徒自身が変化していることに気づきます。できる自分に出会っていることになります。この一連の活動を根気よくしていくことでディクテーションにも非常にスムーズに移行できます。

 

一斉に音読すると元気いっぱいで大騒ぎになったり、声に出すことが恥ずかしかったり、苦手だったりする生徒もいますので、手作りスピーカーホンを使っています。塩ビ雨どいを6~7㎝に切って黒電話の受話器の形にしたもので、軽くて丈夫で、使った後はアルコールで消毒するので衛生的でもあります。 シャドーイングをはじめたころは、聴こえた音だけなのでブツブツとコマ切れ状態ですが、机間巡視をしながら声にできていることをしっかりとほめてあげます。特にスピーカーホンがいい点は小さな声でも耳に届くので、CD音声のように綺麗に発音できた自分の声をキャッチして認識することができることです。

 

たくさんの英語の音声を聴くことでネイティブの子どもたちの母語の習得と同じことをしているのです。この速さに耳が慣れていくと、聴きとる力がついていきます。

 

聴き取る力を支えているのが集中力なので、シャドーイングを繰り返していくうちに英語の音そのものに慣れてきます。ディクテーションは、口を使うシャドーイングが手を使って書くという活動に移行しているだけなのです。中学一年生でも生徒たち自身が驚くほど、実は書き取れるものなのです。

 

 

 

 

Q. 多読・多聴学習には、ディクテーションも大事ですが、どのように指導されているのでしょうか。

 

A. シャドーイングがかなりできるようになったら、いよいよディクテーションに進みます。どのようにするのか詳しく説明をします。

 

Scholastic社のSight Word Readersなどで30ワード未満のものから始めます。慣れると簡単な話は楽しみながら書き取ることができます。小さな達成感を感じていくことが、大切だと思っています。

 

1、CDをかけて本文を見ずに英語を聴き、直ちに書き取る。

このときはまちがえてもいい、ローマ字でもいいから書くことに集中するように指導します。(LとR、CとK、CとSはよく間違えます。)

 

2、書けなかった単語にはアンダーラインを記す

音は聴こえているけれど、速さに慣れなくて書きとれない場合は考え込むことなく書きとれなかった単語が存在したというしるしとしてアンダーラインだけを記します。

 

3、書いた後は、すぐに自分で丸付けをさせる。

まちがえていたら正しい単語を必ず書いていく。ピリオドを忘れてもダメです。丸つけが終わった後に、閉じてもう一回させると8割から9割が書けるようになっています。

 

ディクテーションを通して、ピリオドの存在に気づき、「!」マークは音声から読み取るといったことにも気づきます。パターンの勉強でもあるので、日本だとhorseを教えるときにhorseしか教えません。しかしネイティブの使う本だと必ずaがついている。appleだとanがついている。こうした学び方すると冠詞が抜けませんし、単語を増やし文法も自然に身に付いていきます。

 

「無理、無理、日本人だから」と言っていた生徒が自分の出来映えに一番驚いています。

 

生徒の中には多読やシャドーイングよりもディクテーションにはまる子もいます。そうした子は物語のディクテーションへと先に進めていくこともできます。

 

 

Q. 本を選ぶのに単語数が書いてありますが、単語はどのように増やしていくのでしょうか。またレベルは、赤いものが読めるようになると次へとステップアップしていけばいいのでしょうか。

 

A. あらかじめ、同じ程度の本やシリーズはリーディングシートを作ります。チェックするマスを4つ位作っておくと生徒たちはマスの分だけ読んでくれます。単語数の少ないものは簡単に読み終えることができるので、授業中にたくさんの本が読めたことになります。小さな達成感です。単語数の多い本に向かってどんどん歩を進めるのではなく、じっくりと簡単に書かれているものをたくさん読む(シャドーイングやディクテーションをする)ことで英語への体力をつけることが肝要だと思います。

 

わからない単語を書く、調べることも指導しています。ただ、とにかく一気に読みたい生徒もいるので強制はしていません。タイトルなど読む前に知らない単語があれば辞書で読む前に調べるように促します。その際、学齢にあった辞書を使い、必ず調べた単語の項目は最後まで読ませることをします。

 

多読を進める中でbe動詞と一般動詞はある程度押さえておかないと多読の面白みが半減してしまうので、『中学英単語 α(アルファ) 最初の555語』(著 宮下いづみ、 古川昭夫 アスク出版)を使い語彙を増やすためにも単語チェックはします。文章も読んでいるだけでは「読み滑り」があるからです。音読させて詰まる音というのはわからない単語です。そこを単語チェックで生徒自身がわかるようにする。(丸付けは各自でします)予告せずに単語チェックを行いますが、時期を置いて同じチェックをすると単語が書けるようになっている。言語は繰り返しすることが大事なのです。ただ、あくまでも総合科目としてのチェックなので、100点を目指すのではなくて集中して読み続ける力が単語チェックを通じて自分についてきたことがわかればいいのです。何題中の幾つできた!とか前回よりもたくさん書けたというように自分の成長がわかる活動が多読、多聴には多いと思います。

 

中学三年間でどのレベルまで生徒たちを進めていくかというのは年度の生徒たちの様子に左右されることはありますが、各出版社の英語学習者のためのGraded Readerのstarter, easy reader, beginner(あるいはそれ以上)までは進めていきたいと考えています。どこの出版社も最初のシリーズは動詞が現在形で構成されています。中学一年生の2学期末には読めることになります。一冊読めたから次にLEVEL2に進むと総単語数も増えるので焦りは禁物です。ステップはあまり上げないで、いったりきたりを繰り返します。本当はレベルなど関係なく、生徒が読みたいと思うものを読めばいいと思っています。ただ、指導する目安として900ワードの本を読んだ後に1200ワードにレベルを上げると生徒はつらいです。だから700ワードくらいのもので、楽に読めるものを勧めます。私は、中学三年生でGraded Readerの3レベル(Headwords1200語、準2級程度、CEFR-A2)を読めることを目標としたいと考えています。

 

 

 

 

Q. 中学3年間の総合科目としての授業と高校1年生の英語科授業の連携についてお聞かせ下さい。

 

A. 中学3年間の総合科目としての授業は、一斉授業ではありません。「ハリー・ポッター」を読んでいる生徒もいれば、ディクテーションをしている生徒もいる。得意な生徒はどんどん伸びていきますので先に進めます。逆に苦手な生徒は個別で対応します。そうすることで中間層は得意な生徒たちに引っ張られてボトムアップしていくので、教える側としては苦手な生徒たちに目を向けられるのです。本を読むことが苦手な生徒の横には座りこんで、一緒に読んだり、質問をしたりしています。うっとうしがられていますが(笑)

 

英語を得意とするクラスの生徒たちには、40分間で4800ワードの本を音読できます。未知の単語も3~5語程度で平均60%から80%まで理解ができたと生徒たちは実感しています。苦手なクラスでは、20分間ほど音読あるいはシャドーイングで本を読ませてから、20分間程度 ipadを使って、e-booksの動画を見て楽しみ英語を嫌いにならないようにしています。

 

高校の英語科との連携は、レベルを英語の先生と相談しながら決めていきます。中学から多読をしている生徒も3分の1はいます。Foundation Reading Library、 Building Blocks Libraryなどを使いGraded Readerへの導入基礎を造ります。いずれも1レベル6冊で構成されています。約500語で書かれているものが6冊ですから積算単語は約3000語です。1時間の音読授業でほとんどの生徒が6冊読み終わります。6章仕立ての1冊が読めたと換算することができますね。米粒よりも小さい字で書かれたGraded Readerへの抵抗感を心理的に下げることができます。

 

Graded Readerの文法・テスト相関表などは各出版社のHPにありますので、Graded Readerの読み方指導のところで確認をさせると効果的です。しかし、準2級の英検を受けるからといきなりレベル3のGraded Readerを読もうとすると活字の小ささ、ページ数の多さでくじけてしまいます。1分間で自分がどのくらいの単語数を読めるのかを知るトレーニングといってもよいと思います。500語ぐらいが楽に読めていける読書の体力をしっかりとつけていきたいですね。また、各出版社のHPにはレベルチェックのできるサイト(無料)もありますので、ipadのある学年では必ず一度は利用しています。

 

Graded Readerを読めるようになると、文法の強化と再確認が多読との接点だと生徒たちがようやく気づきます。

 

 

Q. 多読の効果をはかるにはどうしたらいいでしょうか。

 

A. 英検を積極的に受けるように言っています。まずは、小さな文字でびっしり書かれた英文を読む心理的なハードルが下がっていることに生徒自身が気づくと思います。多読・多聴授業を受けている生徒は、長文問題で点数をとります。

 

そして短期間(1学期)に10万語読んだ生徒は英検3級がとれます。1分で100語として1日15分英語を読むと1カ月に5万語弱になります。約2カ月で10万語になります。3級から準2級への壁はノンフィクションをどのくらい読み進めることができるかで合否の差が出ます。CEFR-B2を目指してCEFR-A2から大量にFootprint Reading LibraryやOxford Read and Discoverを積極的に読み込みます。音声もあるのでリスニングも一緒に鍛えることができます。冬休みを利用して、Oxford Read and Discoverの6レベル60冊を完読して英検2級を取得して中学生もいました。

 

中学1年生で毎月10万語を読んだ生徒が第三回の英検を受けて2級にわずか1点足りなかっただけでした。英検でみると多読の効果がよくわかると思います。

 

 

Q. こうした多読多聴の授業を豊富な洋書をもっていない学校で行うには、どうしたらいいでしょうか。

 

A. たくさんの本を買うのは大変です。e-bookであれば、1年間に一人あたり1000円で250冊読み放題で、本国で冊数が増えるとオートマティックに冊数が増えるメリットもあります。お勧めは、アメリカの小学校3年生までの副教材として使われているScholastic社の「BookFlix」、3年生から5年生が対象の「TrueFlix」です。カテゴリーにわけられていて、読んでいる単語にマーカーがつくのでわかりやすいです。

 

予算をかけずに、ということであれば、子供向けストーリーの無料音声配信サイト「Storynory」。作品は著作権が切れたものですが、すべてテキストで読めることと、音読されているので、学習に適しています。プレゼンテーション動画配信サイトの「TED」にもいい話がたくさんあります。

 

英検の過去問も多読多聴に使えます。英検のサイトには5級から1級まで、それぞれ過去3回分の試験問題(リスニング原稿とその音源も)がホームページにアップされています。特に長文読解の内容がとてもいいです。読み応えのある内容で充実しています。多読の好きな生徒の中には受験後に読解が面白かったと内容を話してくれる生徒が数多くいます。単語数も約300語から500語強まで英検級によりバラエティに富んでいます。利用するのであれば、問題として使うよりも読み物として愉しく読ませることをお勧めします。

 

(文責:編集部 高岡幸佳)

 

 

<参考>

 

Scholarstic社
https://www.scholastic.com/digital/index.html

 

Storynory
https://www.storynory.com/

 

TED
https://www.ted.com/

 

英検の過去問
https://www.eiken.or.jp/eiken/exam/

 

Collins Big Cat
https://collins.co.uk/pages/collins-big-cat

 

Oxford社のサイト
https://elt.oup.com/

 

センゲージラーニング株式会社ELT
http://cengagejapan.com/elt/

 

マクミラン
http://www.macmillaneducationasia.com/

 

ピアソン
https://www.pearson.co.jp

 

 

(2017年1月掲載)

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