世界で活躍する人にインタビュー 禅のこころを世界に伝える京都のお坊さん

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世界とつながる人にインタビュー
禅のこころを英語で世界に伝える京都のお坊さん
松山大耕(妙心寺 退蔵院 副住職)

退蔵院の英文Webサイト: http://www.taizoin.com/en/

梅雨の合間のある晴れた土曜の午後、いつもは静まり返っているお寺の境内に若い人たちの騒ぐ声が響き渡った。京都外国語大学の留学生と日本人学生、合わせて40人の若者たちが学外授業の一環で、京都洛西にある臨済宗大本山妙心寺の塔頭である退蔵院で座禅や書道を体験すべく集まった。講師役は同大学でも教べんを取る副住職の松山大耕氏(33)だ。

最初のプログラムは一時間の書道体験コース。用意された筆と墨を使い自分の作品を仕上げるというもの。まず松山氏が書道と禅の関係、また筆の使い方などを流ちょうな英語で解説する。中国や東南アジア、欧州、南米各地からきた留学生23人は慣れない手つきで各自が選んだ好きな漢字を何度も何度も古新聞紙の上で練習し、最後に一枚の色紙に清書する。副住職は一人ひとりに声をかけ、アドバイスしていく。日本人学生よりも上手に書き上げた留学生もいたほどだ。

書道体験が終わると、いよいよ座禅体験コースだ。本堂の大広間、板敷きのフロアに並べられた座布団のうえに正座した留学生らを前に、松山氏が「禅のこころ」や座禅の作法を、これまた流ちょうな英語で説明する。いよいよ本番。副住職が鳴らした鈴(りん)の音を合図に、ざわめいていた学生が瞬時に静まり返り、瞑想に入っていく。禅で得られる境地を副住職は “Clean your heart” ”Clean your mind” と表現するが、無我の境地に達した留学生がいるのではないかと思わせるような厳粛な雰囲気が本堂を覆っていた。


外国人旅行者らに大好評の「禅体験ツアー」

松山副住職が実家でもある退蔵院で「禅体験を外国人に紹介するツアー」(Zen Experience Tour) をはじめてから7年目になる。座禅に始まり書道、茶の湯を体験し、庭園と水墨画についての解説を受け、最後に精進料理を食べるという半日の禅体験コースだ。すべて松山氏が英語で解説し指導する。今年も7月までに400人もの外国人旅行者や留学生らを受け入れている。彼の英語による説法を聞いた海外の著名な政治家、実業家、芸術家も少なくない。最近では、ハーバード大やコロンビア大など、米国のエリート大学の学生が団体で訪ねてくるという。日本文化の発信と国際交流への貢献が高く評価され、松山氏は2009年5月、政府観光庁からVisit Japan 大使の一人に任命されている。また地元の京都市でも「おこしやす大使」に就任している。

日本も伝統と文化で勝負する時代がくる

松山氏が英語による禅体験ツアーを構想しはじめたのは大学時代だ。旅行が大好きで、訪れた国は40か国以上にもなる同氏がとりわけ気に入ったのが英国だ。

一度は没落した英国だが、金融や製薬など得意分野に特化したこと、そして観光産業を活性化することで、元気を取り戻した。実際、王室文化に代表される英国の伝統と文化を求め、毎年何千万もの旅行者が海外から訪れている。「日本も将来はそうなるのではないかという予感がした。製造業はいずれ真似される。そこにばかりしがみついていてはダメ。他の国が出来ないもの、絶対に真似できない伝統や文化。ここで勝負する時代が必ずくるだろうと確信した」と副住職。

東京大学大学院の農業生命科学研究科を卒業。その後3年半、埼玉県の禅寺で厳しい修行を積む。退蔵院に戻ったときには、28歳になっていた。すぐに同寺の副住職に就き、その年には念願の「禅体験ツアー」をスタートさせた。

ネットの海外ニュースサイトで英語学習

海外旅行は別として、外国での留学経験がない松山氏。どのようにして英語をマスターしたのだろうか。

「大学院時代、周りにたくさんの留学生がいて、英語の授業もあったし、ディベートなどかなり英語で行っていた」という。しかし松山氏は、厳しい禅の修行と同じように、地道な英語学習を積み重ねている。「学生時代からBBC Newsをよく聞いていました。まず新聞の国際ニュース面に目を通し、内容をつかんでからBBC Newsを聞くのがコツ。新聞を読むという習慣もできるし、英語耳もできます」と松山氏。いまでも毎日最低30分はBBC Newsを聞くという。「(カタールに本拠を置き、中東のCNNといわれるニュース専門放送局)アルジャジーラの英語版もお勧め。 女性アナウンサーがきれいな英語で話していますよ」

難解な禅の思想を分かりやすい英語で伝えるのは至難の業。「今日の参加者もそうでしたが、外国人といっても中国や東南アジア、アフリカ、中南米など、必ずしも英語を母国語としていない国からの訪問者がほとんど。難しい表現を使っても通じない。おそらく中学校上級レベルの単語で十分。わかりやすく、きれいな発音とアクセントで話すほうが通じます。それを常に意識しています」と副住職。

「まず行動し、間違ったらやり直す」というのが松山流。英語では「Now or Never」(まよったら行動せよ!)が座右の銘という。

(取材/文責:編集部)

“Any fool can criticize, condemn and complain -- and most fools do.” — Dale Carnegie
英語での書道・座禅体験コースの様子
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