コラム~急速に普及し始めた3Dプリンター

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森村久美子

東京大学大学院工学系研究科 上席研究員

 

 3Dプリンター(three-dimensional printerまたは3D printer)について聞いたことがありますか?あるいは実際に見たことがありますか? 通常、プリンターと言えば平面の紙の上に文字や図を印刷する機械のことを言いますが、3Dプリンターはそれを三次元で立体的なオブジェクトを造形する機械です。理工系の技術者の間ではかなり広まってきたとはいえ、まだまだ一般的には普及しているものではないのかもしれません。

 

 コンピュータによるデザイン(CAD: computer aided design) や図形処理(CG: computer graphics) が盛んになるにつれ、作成された画像をその情報に基づいて忠実に立体的に造形する機械「プリンター」が求められるようになりました。コンピュータ上に三次元の図形をデザインすると、そのコンピュータにつなげられた3Dプリンターが情報に従って立体図形を実際に作っていきます。これを「プリント」するという言葉で表しているのですが、立体的に図形を造形していく際にいくつかの方法があります。

 

 

 

 造形していくには、たとえば液体樹脂を紫外線で硬化させる、粉末をレーザービームで燃焼させて固める、光硬化樹脂のシートを積層させる、液化材料を噴射してから硬化する、ワックスを噴射するなどの方法があります。どの方法をとるにしてもデザインどおりに直接作り上げていけるのです。従来のように鋳型を作ってワックスなどを流し込む方法やワックスの塊を削り取っていく方法とは大きく異なります。鋳型を利用する場合は、まず鋳型を成形しなくてはなりませんが、3Dプリンターの場合はデザインに基づいて直接形を作っていくことができるので手間が省けます。削り取る方法では中空の形を作ることはできませんでしたが、3Dプリンターではそれも問題なくできます。複雑な形でも継ぎ目なく一体化して作れるというのも強みです。しかも製造期間を大幅に短縮することができるのです。こういった特徴から、複雑かつ軽量化が求められる航空機業界や、個人個人に対応して何度も形を調整しなくてはならない医療現場では瞬く間に多用されるようになりました。

 

 数年前から航空機の部品では、思い通りにデザインでき、かつ軽いという理由で、樹脂を3Dプリンターで加工する方法で作られているものがあります。初めて聞いたときには、飛行機の部品などという精密であるべきものが3Dプリンターで簡単に作られるということが何かなじめませんでした。しかしよく考えてみると、3Dプリンターを使えばコンピュータ上のデザインがそのまま立体化できますし、細部まで間違いなく再現できます。おまけに素材は従来の金属より軽量化できるなどと良いこと尽くしです。

 

 ただ、従来金属で作られていた部品の強度が樹脂でも飛行時の圧力や熱に耐えられるのかというのが懸念事項でしたが、これも材料としてチタンやCFRP(carbon fiber-reinforced plastic または polymer 炭素繊維強化プラスチック)が用いられるようになり、度重なる試験で耐性・強度がテストされ評価されると一気に活用が進みました。飛行機の生命部分ともいえるエンジンの部品として3Dプリンターで作ったものが利用されているというのは驚きではありませんか。おまけに、いったんひとつのものが完成すると、同じ品質のものが同レベルでいくつでも作れるというのが3Dプリンターの良いところです。

 

 また医療の現場では、MRI(magnetic resonance imaging 磁気共鳴映像法)やCT(computerized tomography コンピュータ断層撮影)で手に入った立体的な画像に基づいて必要な関節や骨の補助器具等を3Dプリンターで作ることができます。これらは人によって微妙にサイズや形状が異なるため、作成するたびに微調整が必要になります。従来のように型を作って材料を流し込んで作るのでは時間がかかりすぎますが、3Dプリンターであれば画像データから直接器具を作成することができ、時間や手間が大幅に短縮できます。

 

 建築の現場でも建築物のイメージを示すのに、従来は図を立体的に描いて表したり、厚紙や発泡スチロールで組み立てた模型を使ったりしていましたが、今ではCADでデザインしたものを3Dプリンターにかけるとすぐに試作品が作れます。顧客や施主にイメージをプレゼンテーションするときにも試作品があればよく分かってもらえます。

 

 価格も3Dプリンターが出始めた1990年代には100万円以上もして、手の届かない値段でしたが、基本特許の切れた2010年ごろからは数万円で手に入るほど一般化してきたので学校や家庭などでも手に入れることができるようになりました。今では高価な材料で製品を製作する前に3Dプリンターで試作品を作ってみることもあります。

 

 最先端の研究をおこなっているボストンのMIT(Massachusetts Institute of Technology)Media Lab.でも多くの作品に3Dプリンターが使用されていて、いまや3Dプリンターのお陰で新しいアイデアが蜂起されることもあるとすら言えそうです。工期を大幅に短縮できる、安価にできる、軽量化できる、大量生産できるなどの利便性に加えて、設計しながら作る同時性も強みのひとつなのだということが分かりました。多くの人々に歓迎され、今や製作の過程では無くてはならないものになりました。21世紀の産業革命と言われたこのすばらしい技術がわずか30年内外の間にこんなに普及したとは驚きですね。

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 ※コラム記事の下線部分①・②・③の英訳例

①    Usually  when we talk about “printers” we mean machines that print letters or figures on a flat piece of paper, whereas 3-D printers are machines that produce objects in three dimensions.

 

②    Furthermore, one of the advantages of 3-D printers is that once you have completed an object with one, you can make as many of the same object as you want in the same quality and at the same level.  

 

③   Conventional methods take a lot of time because a mold has to be made first, and then material is poured into it 

and allowed to set to create an object. However, 3-D printers can save time and work by producing objects directly from image data.

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