コラム~シンギュラリティは近い Singularity is Near

Top>Topics>コラム>シンギュラリティは近い Singularity is Near

Topics

 

 

森村 久美子

東京大学工学系研究科 上席研究員


 

 

 シンギュラリティは近い、2045年には来る、などと言われていますが、これはいったい何のことでしょう。

 

 シンギュラリティとは、直訳すれば単一なこと、特異なこと、それから派生して数学では特異点などを意味します。あるものが他を飛び越えて唯一目立つことです。1) 技術的特異点(Technological Singularity)とは、人類に代わって人工知能(AI)が文明の進化の主役になる日のことです。

 

 皆さん、最近AIという言葉をよく耳にしますね。人工知能(AI)がチェスや囲碁で人間を負かした、家の見守りをAIがしてくれて家の外からオーダーすればお風呂を沸かしたりエアコンを消してくれたりする、あるいはAIを搭載したロボットが放射能で汚染された瓦礫の山に入った等々。AIとはずいぶん便利そうですね。ではそのAIはいったい誰が動かしているの?という疑問がわいてきます。最初はコンピュータのプログラミングによって動いています。つまり人間が書いたプログラムがロボットを動かす、ただ、そのロボットが思考を始めたらどうなるでしょう。AIとはそういう能力を持ったロボットです。2) プログラミングで動きを得たロボットがその結果を自分で参照し、次の行動を考える。しかもベストの解を考えて行動する。これが進んで、一つの計算からその解を再帰的に学習し、次のプログラムを自分で書き進化していくDeep Learningが2012年ごろから飛躍的に進みました。コンピュータやロボティックス、ナノテクノロジーなどの発明はさらに新たな発明と結びつくことで指数関数的に進化が加速していく(The Law of Accelerating Returns)というのがレイ・カーツワイル(Ray Kurzweil)の主張で、それらの進化と人類がいったん同等の能力を持つようになると人工知能が人間を追い抜く日は近いといわれているのです。


 このことを理解しやすくするために、身近な例で見てみましょう。


 今ではすっかり有名になり多くの人の間に定着した感のあるあのドローン(drones)はコンピュータ・プログラミングにより自らの危険を回避しつつ高いところや低いところを自由に飛んで空からの映像を地上に届けています。これまでにもヘリコプターやラジコン(radio control)飛行機などひとりで飛ぶ飛行機類はありましたが、ではそれらとドローンはどう違うのでしょうか。


 ヘリコプターは外部からのコントロールは受けずに人間がコックピットの中で羽根を回転させて飛ばせます。人間が歩いて到着するには厳しすぎる山の上や海上にも赴いて重いものを引き上げたり、輸送したりします。災害時にはヘリコプターが活躍しますね。福島の第一原発の事故の際にも燃料を冷却するためにヘリコプターから散水がなされました。しかしヘリコプターは人間が操縦しますのでそのときに乗り組んだ自衛隊員の方々は決死の覚悟で臨んでおられましたね。


 ラジコンは小中学生のころに夢中になった人も多いと思いますが、無線でコントロールしながら飛行機を飛ばすので、たいがいあまり重くない素材でできていてそれほど頑丈ではない、さらに無線による動きのコントロールが難しいということで障害物のない広い川原などでいかに目的のところに飛ばすか、うまく回転させるかなどの腕を競ったものです。これは主に趣味的に使われます。

 

 3) これらに比べてドローンは、人間による操縦が必要ではないので、たとえば放射線量の高い原子力発電所の跡地や地雷の埋められた地域、敵地の偵察など危険なところへも赴いていくことができます。もともとその目的のために軍用に開発されたのです。ラジコンよりは頑丈でハイテクで自律的にコントロールできる、人間が搭乗する必要がないということで様々な目的で民間にも使用されるようになりました。



 

 

 

 

 

 

 

 

 







 最近ではカメラを搭載したドローンがいたるところで飛び回り、これまで人間には届かなかった高いところから、またヘリコプターで撮影するには低すぎるところからも写真や動画を撮って送ってきています。映画の一部分にももはや当たり前のように使用されていますし、これまで人類が見たこともない景色も居ながらにしてお茶の間に届けられるようになりました。しかしここで問題があります。もしドローンが帰還に失敗した場合はどうなるのでしょうか。どこかに落ちてそのままゴミとして取り残されるのか、知らない人に拾われて次のミッションを帯びるのか、はたまた何かにぶつかって傷害を起こしてしまうのか。またプライバシーの問題や他の飛行物との兼ね合い、通信障害など、まだまだ規約が整っていないうちに動き出したドローンが今後どんな問題を起こしていくのかは想像も付きませんし、それらを規制する法律もようやく平成30年になって動き出したところでまだまだ不十分です。


 しかしドローンによる画像や動画撮影が人々に喜ばれるようになるにつれ、個人消費、映画製作業界も含めドローンに関わる経済効果はどんどん増加していきます。ドローンの機器自体の改善はもちろんのこと、画像認識や画像変換、さらには画像転送システムもますます改善されていくことになります。ドローンに搭載されるAI部分も改良が進み、どんどん自己学習を繰り返していくかもしれません。そしてある日、特異点を越えたらいったいどうなるのでしょう。あちらこちらの空を人間には制御できない無数のドローンがこうもりのように飛び回るかもしれません。もしかするとドローンが最初のオーナーの意図に背いて他の人に映像を送りつけたり、なりすました他の人々の命令でオーナーを攻撃したりしはじめるかもしれないのです。


 あるいは、4) 家の見守りロボットが進化し続け家中の環境を理想的に整えてくれる。しかしそれは人間が求めていることではないかもしれません。エアコンの温度調節を人間に適する温度以上(あるいは以下)にし、見たくもないテレビを勝手にオンにし始め、お風呂のお湯を節約させ、たくさんの必需品をネットで購入し始める。人間の命令を聞いているようで実は人間がその時に望んでいることではないかもしれませんが、もはや人間の心の声は聞いてもらえなくなるかもしれません。まるでSF(Science Fiction)の一シーンのようですが、これがFictionではなくなるのです。たとえば電車が自己学習したプログラムで便利さを追求して間隔を縮めて走り出したり、自動運転車が好き勝手なところへドライブし始めたり、想像しただけで怖くなりませんか。


 レイ・カーツワイルの主張する収穫の加速(The Accelerating Returns)の法則によるとシンギュラリティ(Singularity)自体もさらに加速して進んでいくのかもしれません。シンギュラリティは2045年とは言わずもうすぐそこに来ているのかもしれませんね。

 

 

 

※ コラム記事の下線部分1, 2, 3, 4の英訳例

 

 

1) 技術的特異点(Technological Singularity)とは、人類に代わって人工知能(AI)が文明の進化の主役になる日のことです。


Technological singularity is the day when artificial intelligence (AI) acts as the protagonist of evolution of civilization on behalf of mankind.


 

2)プログラミングで動きを得たロボットがその結果を自分で参照し、次の行動を考える。


The robot who got the movement by programming refers to the result by itself and thinks of the next action.



3) これらに比べてドローンは、人間による操縦が必要ではないので、たとえば放射線量の高い原子力発電所の跡地や地雷の埋められた地域、敵地の偵察など危険なところへも赴いていくことができます。


Compared to these, because drones do not need manipulation by humans, they can go to dangerous places such as the site of nuclear power plants with high radiation dose or the area where land mines are strewn or to reconnaissance overflight. 



4) 家の見守りロボットが進化し続け家中の環境を理想的に整えてくれる。しかしそれは人間が求めていることではないかもしれません。


The watching robot of the house continues to evolve and ideally prepares the environment in the house. However, it may not be what human being is asking for.



― END  ―

このページの先頭へ
コラムカテゴリ
ELEC