コラム~一時代を画した米国の建築家フランク・ゲーリー

Top>Topics>コラム>一時代を画した米国の建築家フランク・ゲーリー

Topics

森村久美子

東京大学大学院工学系研究科 上席研究員

 

  2007年にはじめて米国のマサチューセッツ工科大学 (Massachusetts Institute of Technology、略称 MIT) を訪れた筆者はキャンパスのど真ん中に立つ奇怪なビルディングに度肝を抜かれました。これまで見たこともないような造形、色彩、素材の建物。折れ曲がった四角柱に円柱や円錐などが縦横無尽に付け加えられており、それらはある部分は鏡のようなスチール、ある部分はアルミやレンガでできており、見る角度によってまったく異なる形状を見せてくれます。未完成のようにも壊れそうになっているようにも見えます。これがRay and Maria Stata Centerでした。2004年に、建築界のノーベル賞と呼ばれるプリッカー賞(the Pritzker Architecture Prize)を受賞した建築家フランク・ゲーリー (Frank Gehry) によってデザインされ建てられました。

 

 一階はカフェテリアになっていて多くの学生が授業の合間にランチやスナックを取ったりコンピュータを開いて宿題をしたりしています。MITの建物群は広いキャンパスに複雑に並んで建てられており、通常は番号で呼ばれ、教室もN14-260などのような呼ばれ方をしますが、この建築物だけは32という番号があるにもかかわらず“the Stata”と誰にでも呼ばれ親しまれています。Stataの中にはそこここにMITハックの名残のパトカーや牛が置かれてあったり、チャイルドケアがあったり、地元の野菜や果物などが販売されたり、他の建物へ行く人が通ったりと常に人の行き来が絶えません。

 

 デザインの奇抜さのために水漏れやカビ、下水の逆流や雪や瓦礫で非常口がふさがれるなどの問題があるのは事実で訴訟も起きていますが、私は毎年MITを訪れるたびにStataを見ると、この建物が象徴するMITの発想の自由さを感じてうれしい気分になります。

 

 

Ray and Maria Stata Center, Massachusetts Institute of Technology in Cambridge(2004)  [写真提供:ゲッティ]

 

Walt Disney Concert Hall in Los Angeles(2003) [写真提供:ゲッティ]

 

 一度目にしたら忘れられないような強烈な印象を持つこれらの建築物はいずれもフランク・ゲーリーによってデザインされました。これらは従来の建築素材である鉄筋コンクリートやガラスではなく、アルミやトタン、レンガ、木片といったどこにでもありそうな素材を使って建築されています。また垂直線や平行線は気にせず自由な曲線からなっているのも特徴的です。ゲーリーの作品群は2010年の世界建築物調査で最も重要な作品群とされ、「われわれの時代の最重要建築家」と評価されました。

 

 フランク・ゲーリーがこのような素材を用いてデザインを行なうようになったのには彼の幼少時の体験が大きく影響しています。彼の祖父は金物店(工具店)を営んでおり、そこにある材料を使って祖母と一緒に絵を描いたり物を作ったりするのが好きだったのです。両親は彼にしっかりとした工学を身につけて欲しいと思い大学の工学部に進ませましたが、彼はあまり興味を持てませんでした。そこで彼は自分自身に問いかけました。「僕は何が好きだったのか」「何をしていると楽しかったのか」と。そして祖母と過ごした日々を思い出した彼は本当に好きなのはアートだと気づき、その後大学で建築の道に進んだのです。

 

 最初に建築したのは妻アニタの実家の近くに住んでいた知人用に建てたThe David Cabin (1957) です。これはその後の作品と同様な特徴を見せ、日本(奈良)の正倉院などアジアの影響を色濃く受けたユニークなデザインのものでした。彼はさまざまな作品を生み出しましたが、サンタモニカの生家を買い戻し、オリジナルな細部はそのまま見えるように残してメタリックな外観が元の家を包む彼の生家が最も評判をよびました。

 

 

 Gehry's Residence in Santa Monica, California (1978) [写真提供:ゲッティ]

 

 彼は今もそこに住んでいます。

 

 それからの活躍を列挙するとすばらしいものです。

Cabrillo Marine Aquarium (1981) in San Pedro

The California Aerospace Museum (1984) at the California Museum of Science and Industry in Los Angeles

Chiat/Day Building (1991) in Venice

Frederick Weisman Museum of Art (1993) in Minneapolis

Cinematheque Francais in Paris

Dancing House (1996) in Prague

 

 

The Geggenheim Museum Bilbao(1997) in Bilbao, Spain [写真提供:ゲッティ]

 

 1997年にスペイン・ビルバオにグッゲンハイム美術館 (the Geggenheim Museum Bilbao) がオープンしたとき、米国の著名な建築家フィリップ・ジョンソンは「われらの時代の最もすばらしい建築物」だと褒め称えました。

 

 グッゲンハイム美術館のもたらした影響は大きく、その後、次々と大きな建築物をまかされます。

 

Walt Disney Concert Hall (2003) in Los Angeles

The open-air Jay Pritzker Pavillion (2004) in Chicago

New World Center (2011) in Miami Beach

The Stata Center (2004) at MIT

The Peter B. Lewis Library (2008) at Princeton University

The Beekman Tower at 8 Spruce Street (2011) in New York City

 

 また、シドニー、アブダビ、トロント、ロンドンなどからも要請が来るようになりました。

 

 彼の作品は未完成、あるいは粗末とさえ言われますが、1960年、1970年代のカリフォルニア・ファンクアートの流れを引いています。土など高価でない材料を使い、伝統的でない方法を用いてまじめなアートを作り上げたのです。一方で、彼の作品は周囲の景観になじまない、また土地の気候を無視して作られているなどの批判もあります。

 

   現在も活躍中の88歳になるフランク・ゲーリー。彼の評価は将来、どのように変化していくかは分かりません。ただ20世紀から21世紀初頭にかけて一時代を画したことは確かで、同時代に生きた建築家として今後も語り継がれることは間違いありません。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

コラム記事の下線部分①・②・③・④の英訳例

①These are not made with conventional building materials such as reinforced concrete or glass but with ordinary materials such as aluminum plate, corrugated iron, bricks, or wood.


②He asked to himself, “What did I like?” or “What excited me?”


③It incorporates features that became synonymous with his later works, including strong Asian design influences like those from the Shosoin Repository in Nara, Japan.


④When the Guggenheim Museum Bilbao, Spain, opened to the public in 1997, Philip Johnson, a renowned American architect, hailed it as “the greatest building of our time.”

このページの先頭へ
コラムカテゴリ
ELEC