高等学校新学習指導要領の全面実施

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高等学校新学習指導要領の全面実施
向後 秀明 (こうご ひであき) 教科調査官

各技能を統合的に扱い、4技能を総合的に育成

いよいよ今年の春から、高等学校の外国語教育で新学習指導要領が実施されますが、その目標としていることをお教えください。
 キーワードは、「小中高を通じたコミュニケーション能力の育成」です。この「コミュニケーション能力」という言葉で、3つの異なる学校段階の外国語教育を一つの線で結んでいます。ですから、初等中等教育レベルでの仕上げとなる高等学校では、このコミュニケーション能力を最終的に育成する、というステージになるわけです。
 まず、コミュニケーション能力の育成というものの意味合いを、しっかりおさえておかなければなりません。それは、4技能(「聞くこと」「話すこと」「読むこと」及び「書くこと」)を「総合的に育成する」ということです。特定の技能に偏らない指導をするわけで、この4つの技能をもって、コミュニケーション能力が成り立つということです。新しい教育課程では「コミュニケーション英語」とカタカナが入っている科目もありますが、いわゆる“英会話”を学校で学ぶということではありません。4つの技能を総合的に育成するということが、中学校、高等学校を通じた大きな改善の方針です。そして、4技能を総合的に育成するためには、指導に用いられる教材が、生徒の外国語学習に対する関心や意欲を高めるものであり、同時に、外国語で発信しうる内容であることも重要です。
 2点目としては、その4つの技能をバラバラに扱うのではなくて、「統合的に扱う」ということです。統合的というのは、2つ以上の技能を絡めて指導するという意味です。つまり、聞いたことについて話すとか、読んだことについて書くといった、受信から発信へとつながる言語活動を行うことが必要です。この統合的な指導を通して、4技能を総合的に育成する指導が求められます。その際、文法はコミュニケーションを支えるものとしてとらえ、文法指導と言語活動を一体的に行う必要があります。また、コミュニケーションを内容的に充実したものとするために、指導すべき語数は、「コミュニケーション英語」Ⅰ~Ⅲをすべて履修した場合、現行学習指導要領の1,300語程度から1,800語程度に増やしています。
 以上の2点が、大きな改善の基本方針になりますが、もう一つ付け加えておきたいのは、中学校で学習した事柄の定着を図っていただくということです。それは、中学校での学習が十分ではない生徒が、高等学校における学習に円滑に移行できるようにするためです。外国語科において「コミュニケーション英語基礎」という科目を創設しているのは、そのためです。

一新される7科目のポイント

新学習指導要領の実施で科目構成が一新されますが、各科目ではどのような指導をすることが求められますか。
 高等学校の外国語科では、現行の6科目がすべてなくなり、まったく新しい7科目にしているのが大きな特徴です。
「コミュニケーション英語基礎」は、中学校と高等学校のブリッジ的な役割を果たすもので、日常的な事柄、身近な場面や題材などを扱って、4技能を総合的に育成します。中学校の学習の定着を図りますので、先生方には必ず、中学校の学習指導要領に戻っていただき、そこに示されている言語材料等を見て指導していただくことになります。ただ、あくまでも高等学校の科目ですから、それを踏まえた上で、高等学校の教育にうまくつながるようにしていただく必要があります。

 「コミュニケーション英語」Ⅰ・Ⅱ・Ⅲも、4技能を総合的に育成する科目です。特に、「コミュニケーション英語Ⅰ」は必履修科目として位置付けていますので、この科目において、統合的な活動を通して4技能を総合的に育成し、コミュニケーション能力を養うことができるようにします。
 「英語表現Ⅰ」と「英語表現Ⅱ」という科目も新設されています。今回の改訂の大きな特徴となっているのが、この「英語表現Ⅰ」と「英語表現Ⅱ」になります。これらの科目では、主に「話すこと」と「書くこと」の2つの技能を扱います。それから、「論理的思考力」と「批判的思考力」を養うことも狙っています。具体的な活動としては、例えば、スピーチ、プレゼンテーション、ディスカッション、ディベートなどを行うことになります。ですから、これらの科目では、まさに英語で発信する能力を育成します。そこで注意する必要があるのは、この新しい2科目は、文法事項を体系的に学ぶ科目では決してないということです。生徒の英語で話したり書いたりする活動が授業の中心となっていなければ、「英語表現」とは言えません。この点を、先生方には十分にご理解をいただく必要があります。
 もう一つ、「英語会話」という科目があります。「英語会話」は、主に「話すこと」と「聞くこと」の技能を中心に扱う科目で、身近な話題についての会話だけでなく、海外での生活に必要な基本的な表現を使って会話することも含まれています。この科目では、音声を中心にコミュニケーションを図る活動が実際の教室で行われることになります。
文法に特化した科目はない、ということですね。
 はい、ありません。これは、現行の学習指導要領でも同じことなのですが、文法だけを取り出して、コミュニケーションと切り離して教えるような科目は存在しません。文法事項については、今回、必履修科目である「コミュニケーション英語Ⅰ」ですべて扱うこととしています。その点で、新学習指導要領では、文法をより重視しているとも言えます。ただし、「すべて扱う」というのは、あくまでも言語活動と関連付けて扱うということです。例えば、「この能動態の文を受動態にしなさい」というような授業はありえない、ということです。これは、単に文法操作能力を試すものであり、そこにはコンテクストが存在していないし、場面も示されていません。そのような指導では、生徒が実際の場面で応用できるコミュニケーション能力を身に付けることは困難です。受動態であれば、受動態が使われる必然性のあるコンテクストの中でその文法事項に対する気付きを促して、そのあとに、形式にフォーカスをした指導でフォローする、ということはあると思います。しかし、「今日のポイントは受動態を作ることができるようになることです」という授業では困るということです。どの科目でも、文法はコミュニケーションを支えるものであるという認識をもっていただかなくてはなりません。
言語活動を通して文法を習得させたり語彙を増やしたりするということですね。
 そういうことです。そのためには、多量の英文に触れるということがポイントになります。授業を英語で行う場合には特に、多量の英語に触れて、そこから徐々に習得をしていく、自分で使えるようになるまで慣れていく、というプロセスがあると思います。いい例が単語テストですね。単語集を使って、ある単語を英語と日本語を対比させることで覚えさせても、すぐに忘れてしまいます。また、その単語が実際の文脈の中で出てきた場合には、覚えていたと思っていた単語でも理解できないことが多い、ましてや、その単語を自分で使えるようにはならないというのが現実です。ですから、授業の中で、日本語を与えてそれに合う単語を書かせるといったテストをやっても、学習効率はかなり疑問です。サプルメンタリーの課題として出す、ということはあるかもしれませんが・・・。例えば、長文の中で、どうしてもこの長文を理解するキーとなる語を生徒各自で5つ選んで、英文とともに何度も読みましょう、声を出して言ってみましょう、というような指導のほうが、結果的には語彙は増えると思いますね。
今回、教科書も大きく変わりました。新しい7科目の教科書と学年配当との関係についてお教えください。
 決まっているのは順序性だけで、どの科目の教科書を何学年で使うという規定はありません。

 「コミュニケーション英語」の場合、Ⅰ、Ⅱ、Ⅲの並びで、Ⅰ(必履修)が最初となり、その次がⅡ、その次がⅢ、という並びの規定があるだけです。また、「コミュニケーション英語基礎」を履修させる場合は、「コミュニケーション英語Ⅰ」の前に履修させることになります。例えば、一学年で「コミュニケーション英語Ⅰ」、二学年で「コミュニケーション英語Ⅱ」、三学年で「コミュニケーション英語Ⅲ」と履修しても構いませんし、一学年で「コミュニケーション英語基礎」、二学年で「コミュニケーション英語Ⅰ」を取り、三学年では「コミュニケーション英語Ⅱ」を履修して「コミュニケーション英語Ⅲ」はやりません、ということも可能です。さらに、「コミュニケーション英語基礎」は、中学校での学習事項の定着を図るという科目の性質上、例えば、一学年の前期で「コミュニケーション英語基礎」を行い、後期からは「コミュニケーション英語Ⅰ」を行うといった教育課程上の工夫をすることも重要です。平成25年度には、このような教育課程を組むところを含めて、多くの学校で「コミュニケーション英語基礎」を履修させるようです。これは、英語で行う授業に慣れさせるという点でも、生徒の学びのプロセスを十分に考慮していると思います。
 「英語表現Ⅰ」と「英語表現Ⅱ」も、その順序性がⅠとⅡであるだけで、どの学年で履修してもかまいません。また、「英語会話」についても、いずれの学年で履修することも可能です。
 新しい教育課程では特に、外国語科、そして各科目の目標を達成するために、教師が授業の中で教科書をどのように活用するかが大切なポイントになります。教科書の順番どおりに教えて、生徒たちが学習指導要領で求める力を身に付けることができれば問題ないのですが、それが難しいと判断した場合には、必要に応じて、教科書で扱う順番を入れ替える、活動の難易度を調整する、目標によって内容を取捨選択する、といった工夫が求められます。例えば、「英語表現Ⅰ」の教科書で、単元の前半に文法事項などの言語材料が並べられ、その理解を定着させるための問題が続き、最後に単元のテーマについて話し合う活動が示されていたと仮定しましょう。繰り返しになりますが、「英語表現Ⅰ」は文法事項を体系的に学ぶ科目ではありません。この科目の目標やこの科目で行う言語活動を考えれば、単元の最後にある「話し合う活動」ができるように指導することがポイントになります。ですから、次のような指導過程や教科書の扱いが考えられるでしょう。
  •  まず始めに、単元の最後にある言語活動を生徒に示し、何について、どのような話し合いをすることができ
       るようになることが目標であるかを示す。
  •  生徒とのインタラクションを通じて、話題に対する生徒のモチベーションを高めるとともに、スキーマの活性
       化を図ったり必要な表現を導入したりする。
  •  教科書の前半に書かれている言語材料を、与えられた話題について話し合うために必要な文法事項や
       表現に絞って、必要に応じて指導する。
  •  話題に対する理解を深め、更なる情報を得るために、生徒各自でリサーチをするとともに、得た情報を整理
       してまとめる。
  •  リサーチをして得た情報を参考にしながら、自分自身の意見や考えをメモ書きしてまとめる。
  •  ⑤で用意したメモを参考にしながら、グループで意見などを伝え合う。
  •  各グループで出された意見などを集約し、グループごとに発表する。
 よく言われているように、「教科書を教える」のではなく、「教科書で教える」ということです。この考え方が定着しないと、「はい、今日はレッスン2の最後までいきますよ」といった指示を出すことになりかねません。「レッスン2の最後までいく」ことは目標になり得ないので、「この能力を身に付けるための教材としてレッスン2を利用します」という考え方をすることです。
新しい科目の学習評価について、どのようなことに注意していけばよいのでしょうか。
 指導計画を立てる際に、学習到達目標と併せて学習評価の具体策をどうするかというところを同時に考えていくことが、指導と評価を一体化させた指導計画を作成するためのポイントになります。
 例えば、「話すこと」について設定した学習到達目標のそれぞれについて、いつ、どのように評価するかということを考えておかないと、指導計画を作って授業をしていったが、評価まで気が回らず、結果的に「話すこと」の評価をする時間がなくなってしまった、などということになりがちです。
 「コミュニケーション英語Ⅰ」の評価を例にとれば、定期考査などによる筆記テストが評価全体の8割を占めるというようなことは、通常考えられません。この科目では4つの技能をすべて扱うわけですから。「話すこと」の能力は話すことを通してしか評価できませんので、例えば、インタビューテストなどを行う必要があるでしょう。また、「書くこと」については(これは筆記テストでできるかもしれませんが)、実際に英文を書かせて評価することになります。また、定期考査だけに限定せず、日常的に各技能の評価を積み重ねていくことが大切です。総括をする際、4技能のすべてを評価しているわけではない定期考査の比重が大きくなりすぎないよう注意が必要です。
 それに対して、「英語表現Ⅰ」と「英語表現Ⅱ」は、「話すこと」と「書くこと」の技能を中心に扱う科目ですから、評価は、当然、その2つの技能に対する評価となります。これらの科目に、観点別学習状況の評価における「外国語理解の能力」の観点が入ることはありません。また、「英語表現Ⅰ」で筆記テストによる定期考査を行うとした場合、そこに文法や語法の問題が並んでいるなどということはあってはいけないことです。特に「英語表現」Ⅰ・Ⅱでは、生徒に実際に話させたり書かせたりしないと評価ができないので、「話すこと」については、定期考査ではない場面、例えば、日常の授業を利用して評価したり、「書くこと」については、30分間の一斉ライティングといった評価を積み重ねていくことになります。「英語表現」Ⅰ・Ⅱでカバーしなければならない文法事項というものはありません。くどいようですが、これらの科目の指導と評価は、あくまでも「話すこと」と「書くこと」にフォーカスをすることになります。
学習評価でなにか参考になるレファレンスをご紹介ください。
 国立教育政策研究所が出している「評価規準の作成,評価方法等の工夫改善のための参考資料」を最初に読んでください。ここには、「話すこと」の評価として、インタビューテストの例も出ています。国立教育政策研究所のホームページでも公開されていますが、冊子も購入できますので、ぜひ活用してください。冊子の方が最終版です。
 また、文部科学省では今年度、全国218校の高等学校及び中等教育学校後期課程の第3学年の生徒約5万1千人を対象に、英語力の検証調査を実施しました。この調査は、日本英語検定協会の「英語能力判定テスト」をベースとした試験と、ベネッセコーポレーションの「GTEC for STUDENTS」をベースとした試験によって行われ、初めて対話型によるスピーキングテストも導入しました。現在、調査結果を取りまとめていて、3月末までには結果分析と指導改善の方向について公表する予定です。この調査におけるスピーキングテストの実施方法や「話すこと」の評価の在り方、ライティング問題の出題方法などは大変参考になると思います。高校3年生が各技能についてどれくらいの力をもっているのかがわかりますので、是非、報告書をお読みください。また、生徒と学校に質問紙調査を行っていますので、その結果も併せて発表する予定です。
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